<民泊ビジネス>登録1年で3倍に 大半無許可、政府調査へ

日本を訪れる外国人観光客が急増する中、個人が住宅の空室などに外国人を有料で泊める「民泊」と呼ばれるサービスが広がっている。ホテルの部屋が足りなくなる一方、高齢化などで空室が増えているためだ。月400万円以上稼ぐケースもあり、関連事業も次々と登場している。ただ、多くは旅館業法で必要な営業許可を得ておらず、政府は実態調査に乗り出した。

◇月400万円以上稼ぐケースも

 「高級ホテルはどの国にもある。私が泊まりたかったのは畳の部屋だ」。今春、フランス人の4人家族が京都市にある町家風の一般住宅に宿泊した。一家は飛行機のファーストクラスで世界を旅する富裕層。家主から住宅を借りて、フランス人に貸した会社員の男性(43)は「お金持ちが選んでくれて驚いた」と話す。

 両者をつないだのは、2008年創業の米Airbnb(エアビーアンドビー)社のサービス。インターネットで宿泊場所の提供者(ホスト)と旅行者(ゲスト)を引き合わせており、対象は190カ国、3万4000以上の都市だ。

 同社によると、日本の部屋の登録件数はこの1年で3倍以上に急増。8月現在、約1万3000件が登録されている。男性は京都の住宅のほかに賃貸マンションの部屋などをそれぞれの家主から了解を得て借りて登録している。多い時で月400万円以上を稼いだといい、「こんなに人気があるとは。大変な副収入だ」と驚く。

 男性は旅館業法で必要な営業許可を得ていない。「民間同士の自由な契約なのだから許可がなぜ必要なのか」と語る。

 ホスト向けサービスを代行するベンチャー企業も続々と誕生。通訳を派遣したり、室内の清掃を請け負ったりするなどして、売り上げの一部を手数料として受け取るビジネスだ。東京都内で約30人のホストをサポートするアクシスモーションの田中祥司代表は「ゲストと一緒に居酒屋に行くなど、普通のパックツアーでは買えない『体験』を提供できる」と語る。

 総務省の統計によると、高齢化や人口減を背景に、全国の空き家率(マンションなどの空室も含む)は2013年に13・5%と過去最高になった。代行会社のエクソン(大阪市)の中島正晴社長は「空室が埋まらず困っている家主が多くいるが、日本人に不人気の物件でも外国人は泊まる。旅行者も家主もみんなが喜ぶビジネスだ」と話す。

 「民泊」の料金は、おおむね1泊1万円前後とされる。都内の代行会社の収益表によると、渋谷区で家賃12万7000円のマンションの部屋(30平方メートル)を民泊に提供すると、月の売り上げは36万円が見込める。代行会社への手数料14万円を引いた22万円がホストの利益になる。高い利益が期待できるため、資産運用としても注目されている。ある代行会社の社長は「投資家から1億円をエアビーで増やしてくれと頼まれた」と明かす。人手不足のため断ったというが、「態勢さえ整えば高い利益を出す自信がある」と話す。

 有志でお金を出し合ってホストに登録したサラリーマンや、分譲マンションの販売を急きょ中止してエアビーに登録する準備を進めている業者もいる。「日本人に部屋を貸している場合ではない」「マンション1棟を丸ごと登録したい」。不動産業界からはこんな声まで出始めている。

【ことば】旅館業法

 お金を取って客を宿泊させる場合、都道府県知事から営業許可を取るよう定めている。フロントの設置や寝室の面積など必要な施設について一定の基準を満たさなければ許可は得られない。食事を提供する場合は食品衛生法上の許可も必要。Airbnb(エアビーアンドビー)のサービスを利用した場合、宿泊場所の提供者(ホスト)と旅行者の「仲介者」である同社ではなく、ホストが旅館業法に抵触する可能性が指摘されている。

【ことば】Airbnb(エアビーアンドビー)

 2008年に米国で創業。Airbed(簡易ベッド)とBreakfast(朝食)が社名の由来。創業者がアパートの空きスペースに簡易ベッドと朝食を付けて貸し出したところ人気を呼んだためビジネス化した。ゲストの数は累計2500万人以上。14年5月に日本法人が設立された。