「強者連合」セブン&アイとユニクロ 提携で両社は何を得るのか

20150817-00000001-wordleaf-000-4-view7月末、セブン&アイ・ホールディングスとファーストリテイリングが業務提携に向けた交渉を進めていることが明らかになった。セブン&アイ・ホールディングスは、セブン-イレブンやイトーヨーカドー、西武百貨店などを傘下に持ち、コンビニの加盟店売上を含めた「グループ売上」が10兆円を超える巨大小売グループだ。一方、ファーストリテイリングは、「ユニクロ」、「GU」などを展開する国内最大手の衣料品チェーン。年内をめどに合意を目指すという今回の両社の業務提携は、それぞれどのような意図を狙ったものなのだろうか。コンサルティング会社D4DR(ディー・フォー・ディー・アール)社長で、インターネットビジネス、流通業界に詳しい藤元健太郎さんに話を聞いた。

セブンが1000億円投資した「オムニチャネル」を狙うユニクロ

 両社は報道を受けて、「お客様に小売業の新しい価値を感じていただけるような革新的なサービスを提供すべく、複数の分野で業務提携に向けた話し合いを始めていることは事実」であるが、具体的な内容はまだ決定していないというコメントを発表している。
 
 ファーストリテイリングがセブン&アイと提携する理由について、藤元さんは、「ファーストリテイリングには、現状のままではまずいという危機感があるのではないか」と推測する。同社が抱く危機感とは、ひとつは、現状の業態のままでは、ZARAやH&Mという世界企業と売り上げに倍くらいの差があり、柳井正会長兼社長が掲げる「2020年までに売り上げ5兆円」という目標の達成が難しいのではないかということだ。
 
 もう一つの危機感は、国内市場における伸び悩みだ。「ユニクロ」の6月、7月の国内既存店売上高は、約3年ぶりに2カ月連続のマイナスとなった。東レと組んでヒートテックを作るなど、いい商品を作り、店舗を多く展開していく従来のビジネスモデルが限界に来ているのではないかと藤元さんは解説する。

 同社が今年2月に公式ホームページ上で発表した柳井社長のインタビューで、柳井社長は「リアル(店舗)とバーチャル(インターネット)の融合」を目指すと述べている。柳井社長は、既存のユニクロのビジネスモデルを「リアルとバーチャルが融合する新しいサプライチェーンに作り変えなければならない時期に入っている」と言う。

店舗とインターネットの融合がなぜ必要なのか。藤元さんは今のアパレル業界の課題を次のように解説する。「ユニクロのような衣料品製造小売は、シーズンごとに新商品を出して大量に販売している。すると、必然的に余りセールを行う必要がある。一方で、近くのユニクロの店舗に行ったら、自分に合ったサイズ、色が無かったりする。つまり、欲しいものが欲しい時に手に入らないのが今のアパレル」。そこで、店舗ごとの在庫管理、インターネット通販の在庫管理を統合し、効率化する仕組みを作る必要がある。

 そこで、ファーストリテイリングは2つの施策を行った。ひとつは、2014年10月に発表した大和ハウス工業との協業である。両社は東京・有明に共同出資による大型物流倉庫を建設している。あと10個以上建設する予定だというこの次世代型倉庫で、柳井社長は同インタビューの中で、「リアルの店舗で欠品している商品があったとしても、その場ですぐにバーチャル店舗でオーダーし、お客様が帰宅する頃には自宅に商品が届けられているというような、これまでとは全く違うショッピングの方法が一般的になる」とその可能性を語っている。

 もう一つの施策が、今年6月に発表した、国際的コンサルティング企業アクセンチュアとの協業である。藤元さんは、アクセンチュアとの協業は人材面での理由が大きいと語る。「従来の採用では、デジタル革命に対応した人材の確保が難しい。ビッグデータ分析などが出来る人材をともに育て、H&Mに勝てる態勢を作る」と狙いを分析する。

 そして、それらの連携と同じ文脈にあるのが、今回のセブン&アイとの提携である。ファーストリテイリングが目指してきた、「店舗とインターネットの融合」という施策は、「オムニチャネル」とも呼ばれる。オムニチャネルとは、いつでもどこでもネットでも店舗でも、一人ひとりのライフスタイルにあったサービスを受けられるようにする仕組みを言う。

国内でオムニチャネルの取り組みが、最も進んでいるのが1000億円以上投資し、今年の10月から本格的に指導しようとしているセブン&アイ・ホールディングスだ。ファーストリテイリングとしては、従来の取り組みを加速させるためには、多額の投資を行い構築されたセブン&アイのオムニチャネルのプラットフォームを利用したいと考えた。それが今回の提携のファーストリテイリング側の背景ではないかと藤元さんは解説する。

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セブン&アイの「オムニチャネル」とは

 セブン&アイ・ホールディングスの「オムニチャネル」とは、全国に1万7000店以上あるセブン-イレブンの店舗を中核に、イトーヨーカドー、ヨークベニマルなどのスーパー、百貨店のそごう・西武、ファミレスの「デニーズ」、ロフト、タワーレコード、セブン銀行など100社以上ある業種も多様なグループ企業の商品・サービスを一元的に管理し、顧客のニーズに応える施策だ。

 セブン&アイは、今年の10月からオムニチャネルの統合サイトを本格稼働する予定だ。統合サイトでセブン&アイのグループ各社の商品を注文でき、セブン-イレブンや自宅で受け取れるようになる。同社は、オムニチャネルを「成長の第2ステージ」の中核として、2013年10月にオムニチャネル推進プロジェクトを設置。2013年12月には、通販大手の「ニッセン」を買収した。サイトオープンに合わせて商品開発を進めているという。

セブン側の狙いとは

 今回の業務提携のセブン&アイ側のメリットは何なのだろうか。藤元さんは、両社はまだ否定しているものの、イトーヨーカドーの衣料品コーナーにユニクロの製品を入れるためではないかと推測している。「セブンプレミアム」などの同社のプライベートブランド(PB)は、現在、食品が中心だ。そこに、ユニクロの商品をPBとして入れることで、苦戦している衣料品コーナーのテコ入れになる上に、セブン&アイは、衣食住のうち、「食」と「衣」をPBで押さえることができる。そのような戦略をセブン&アイ側では検討している可能性があると藤元さんは説明する。

一方で、7月には、楽天とローソンが包括的業務提携の交渉を行っていることが明らかになった。なぜいま、様々な企業の提携先としてコンビニが重視されるのか。それは、日本のおけるコンビニの密度にあると藤元さんは言う。「都市部であれば400m以内にコンビニがある。アマゾンはアメリカで『自宅により早く』届ける方向へ努力しているが、日本にはコンビニがある。自宅でもコンビニでも受け取れる方が良い。しかもコンビニは様々な商品・機能がある。そんな人々の毎日の接点があるのがコンビニ」

 インターネットの普及などで人々のライフスタイルが変化し多様化する中、流通小売業界は、「ネット通販に店舗の売り上げが取られる」といった考えから、店舗とネットを組み合わせてより利益を上げる方向へと変わってきた。セブン&アイとファーストリテイリングという市場の「強者」が手を組み、市場の変化に対応しようとしている。