カード統計"水増し"は、なぜ続いてきたのか

日本のクレジットカードの発行枚数は、公表数字の約3億2000万枚に到底届かず、2億6000万枚にも満たなかった──。

日本クレジット協会が公表してきた業界の統計数字について、過去10年さかのぼって調べ直したところ、数多くの過大集計が明らかになった。

 前代未聞の不祥事が判明したのは2014年12月26日だ。それから5カ月が経つものの、「いまだに原因や責任の所在についてはきちんとした説明が行われていない」と関係者の間に不満がくすぶる。

■ 政府や研究者が資料として活用

 協会の統計は会員であるクレジットカード会社の任意協力に基づくもの。だが、大半の事業者をカバーしており、公の統計として政府や研究者の間で広く活用されてきた。

 たとえば経済産業省が設置した「クレジットカード決済の健全な発展に向けた研究会」の中間報告書(14年7月11日)では、「民間最終消費支出に占める(クレジットカードの)決済割合は1990年代の4%程度から現在の20%程度へ着実に成長を続け」との記述がある。

 その基になるデータは、協会が公表したカードショッピングの信用供与額であり、約53兆円(13年3月末)とされていた。が、実際は約41兆円しかなかったことが判明。決済割合も14%にすぎなかったのである。

 このように影響が大きいにもかかわらず、協会は訂正に際して記者会見をせず、14年末の記者クラブの仕事納めの日に資料の投函だけで済ませた。

今年1月7日の協会による賀詞交換会でも、大森一廣会長から関係者への説明や陳謝の言葉はなかった。最大の問題は、原因が明らかにされていないことだ。協会の発表文は、「一部調査対象事業者において報告すべき数値の解釈に誤解があり、その結果、過大な数値により報告がなされていたことが判明しました」というだけ。誤解の内容や誤った報告をした企業の名は伏せられている。

 その理由について協会の松井哲夫副会長は、「詳細を明らかにすると、会社名が特定される。そうなると会社名は申し上げないと言ってきたことと矛盾してしまう」と本誌の取材に答えている。

 松井副会長は否定するが、原因を作った企業との間で何らかの密約があったのではないか、との疑いを抱かせる。

■ 説得力を欠くJCBの説明

 本誌は取材を通じて、問題を引き起こした企業が、大手のJCBであることを突き止めた。そのうえで同社に見解を聞いたところ、協会が本来求めていた個別企業の数字ではなく、「(提携先を含む)グループ全体の数字を答えていた」(細田和之広報部長)と過大報告の事実を認めた。その一方で「解釈の違いであり、間違った数字を答えたという認識は持っていない」(細田氏)とも言う。

 しかし、JCBの説明は、説得力が乏しい。というのも、本誌が協会から入手した「平成25年度消費者信用実態調査回答票」には「記入上の注意」として、「この調査は、企業単位の調査です」と明記されているからだ。フランチャイジーを含む「グループベース」で報告すれば、信用供与額やカード発行枚数がダブルカウントされてしまうことは、容易に想像できる。

 それではなぜ、社名が明らかにされる調査ではないのに、JCBは過大な数字を回答したのか。明確な回答は得られなかったが、他社との競争の中で、自社の姿を“より大きく”見せようとする意図が底流にあったのではないか。

■ 協会は誤りを認識しながら放置? 

 たとえば同社はカード発行会社単体としての信用供与額を明らかにしていないが、フランチャイジーの数値などと合算した「総取扱高」を開示している。こうした慣行が、協会に回答するに際し、影響を与えた可能性もある。

 カード業界の事情に詳しい『月刊消費者信用』の浅見淳編集長は、「各社の情報開示の仕方には統一的なルールがない。情報開示のあり方を真剣に考えてこなかったことが問題の放置につながったのではないか」と指摘する。

 前出の松井副会長は「過去に職員が疑問を呈したものの、先方の企業からは、『当社の方針ではこの数字しか出さない』と言われたようだ」とも述べている。もし事実だとしたら、協会は誤りを認識していながら、看過していた可能性がある。

 協会によれば、少なくとも03年から間違いがあったが、それ以前の状況は把握できなかったという。日本でクレジットカードが誕生してから55年。統計が正確性を欠くため、業界の歴史をたどることも困難なようだ。