JTなど反発…たばこ「魅力削ぐ包装」各国に波紋 問われる経済・表現の自由

20150410-00000019-biz_fsi-000-2-viewたばこ箱を簡易包装に規制する「プレーン・パッケージ(PP)」法が各国に広がる勢いを見せ、国際的な波紋が広がっている。豪州政府が喫煙抑制を目的に2012年末から施行したのに続き、今年3月、アイルランドと英国でも同様の規制法が成立した。これに対し、各国のたばこ業界は反発を強め、5カ国が世界貿易機関(WTO)に豪州を相手に提訴中だ。包装規制は酒類や菓子など食品にも拡大する気配だが、経済活動ばかりか表現の自由までも制限されることに是非が問われそうだ。

豪州のPP法はパッケージ(箱)の魅力を低減させ、喫煙意欲を削ぐことで、たばこ消費の抑制を狙ったもの。ブランドロゴをはじめ一切のデザイン要素を箱から排除。健康被害を強調する写真や警告表示を大きく掲載したり、箱の色も「茶緑色」に限定したりしているほか、ブランド名のフォントやサイズにいたるまでも細かく規定されている。

11年に同法成立後、米フィリップ・モリス、英ブリティッシュ・アメリカン・タバコ、英インペリアル・タバコ、日本たばこ(JT)の大手4社は、簡易包装を強いる同法は違憲であると豪政府を相手取り提訴したものの、豪連邦最高裁は12年8月、「合憲」と判断。12年末から簡易包装のたばこだけが販売されている。

豪州に続き、アイルランドと英国でたばこ箱を簡易包装とする規制法が今年3月に成立したのを受け、両国政府に対しJTなどたばこ業界は今回も法廷闘争に持ち込む構えを見せるなど反発を強めている。

反対する理由としてJTは(1)規制による(喫煙抑制の)有効性に関する確たる証拠が欠如している(2)過度な規制であるため、ブランド商標、知的財産権、表現の自由が侵害される(3)不法取引の増加や販売現場の混乱など、広範囲に悪影響を及ぼす−の主に3点を挙げる。その上で、現行のパッケージ仕様や規格が維持されて、未成年喫煙防止という重要な問題には「年齢確認の徹底や処罰の厳格化などの制限的ではない代替策で達成できる」(JT)と主張している。

この3カ国のほかにもニュージーランドやフランス、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、トルコ、台湾、ブラジルなどでPP規制の導入が検討されている。

規制導入の動きに対抗して、たばこの簡易包装を義務づける豪州を被申立国とする紛争がWTOに5件起きている。ウクライナが14年秋、商標権の保護が不十分だとして提訴。ホンジュラス、ドミニカ、キューバ、インドネシアの4カ国も続き、「WTO初の公衆衛生と国際通商のバランスを問う紛争」(JT)として、日本を含む36カ国が第三国に参加するなど関心は高い。今年6月に第1回のパネル会合が開催され、結論は16年の半ばとなる見通し。豪州のPP規制が、商標使用の制限は不当なものであってはならないことを要求する知的財産権の保護規定や、強制規格が必要以上に貿易制限的であってはならないことを要求する規定に反するかどうかが主な争点だ。

明治大学法科大学院の高倉成男教授は、「適正な補償もなく『商標の使用禁止』という手段をとったのは比例性の原則に反するのではと考えるが、豪州PP法をWTO違反とする結論が出されるのも考えにくい。『公衆衛生は経済的価値に常に優先する』といった硬直的価値判断に基づく解決はあってはならず、商標使用禁止の必要性や有効性、重要性と規制によって生じる財産権の制約の均衡が取れているのかどうか、きめ細かな判断が求められる」と指摘する。

そのうえで、「グローバル化でもたらされた知的財産などの経済的価値の保護強化に対し、公衆衛生などの非経済的価値を保護する国内規制の衝突。WTOにおける商標権の国際保護とPP法の関係は、医薬品開発の特許保護とエイズ対策などにも通じる」とみている。

PP法については、WHO(世界保健機関)のマーガレット・チャン事務総長が2013年、「たばこだけではなく、巨大な食品、炭酸、アルコール(会社)と戦わなければならない」と発言。インドネシアでは昨年、アルコール飲料メーカーに対し、簡易包装を採択するか、目立つ部分に摂取を控える注意書きの図を表記するかを求める法案を提出している。

キリンビバレッジの佐藤章社長は「清涼飲料は健康被害が明確なたばことは違う。が、法令順守と自由な表現とのメリハリは求められるだろう。PP法が世界でどうなるのか、わからないが、(海外を含めて)法規制されれば、順守していくのは当然」と話す。ただ、実際にPP規制が強まれば、「ブランドロゴをはじめ表現が規制されるのは、死活問題に通じる。ブランド構築力は企業価値の一つ」(飲料メーカー幹部)との意見が強い。

日本では、たばこ税の担税力は大きく、PP法導入には消極的な姿勢を取るとみられるが、先進国では規制水準に格差がありながらも次第に導入していくと予想されている。豪州の一国内法として始まったPP法の波が日本にも到達した際の対処は悩ましい問題をはらむことになりそうだ。