ハイブリッド車の教訓か?トヨタ燃料電池特許を開放

20150119-00065282-diamond-000-2-view1月6〜9日、今年も米ラスベガスで世界最大の家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー」が開催された。その初日に話題をかっさらったのは、家電メーカーではない。トヨタ自動車である。

 この日、トヨタは水素燃料で走る燃料電池車に関連し、単独で保有する約5680件の特許を無償開放すると発表。ライバルだろうが全ての特許を“タダ”で使えるというからインパクトがあった。

 トヨタは昨年12月、世界初となる燃料電池車「MIRAI(ミライ)」の市販にこぎ着けたが、初年の予定販売台数はわずか700台。導入期にあえて他社の参入を促すことで、燃料電池車を本格的に普及させるのが狙いだ。

 その背景には、「ハイブリッド車の教訓があったのでは? 」との見方もある。トヨタは、ハイブリッド車の関連特許を無償開放はしていない。確かに世界の新車販売に占めるハイブリッド車の比率は、トヨタが初代「プリウス」を市場に投入してから17年がたった今も数パーセントにとどまっている。

● 特許料は原価の数%

 燃料電池車は車本体の問題だけでなく、燃料供給のための水素ステーションがネックとなる。トヨタは今回、燃料電池システム関連の特許の無償開放の期限を、普及期と想定する2020年末とした。

 一方、水素ステーション関連の特許(約70件)は無期限としている。インフラの普及に重点を置いてでも、燃料電池車を主流にしたいとの思惑が垣間見える。

 表向きは燃料電池車に否定的とみられる欧州最大手の自動車メーカー、独フォルクスワーゲンも、「インフラさえ整えば、すぐに市場投入できる用意はある」(フォルクマル・タンネベルガー電子・電装開発部門専務)と本音を明かす。

 もっとも、今回の無償開放はインパクトこそあるものの、実際の効果は定かではない。有償でも特許使用料は、一般に量産してしまえば燃料電池ユニットの原価の数パーセント程度に満たない。ハイブリッド車でも、トヨタの関連特許は基本的にはオープンで、他社が有償で使用してきた。

 日進月歩で陳腐化しがちな技術を、どれくらいの企業が採用するかも未知数だ。昨年6月には米国の電気自動車メーカー、テスラ・モーターズも電気自動車関連の全特許、約200件を無償開放したが、「精査したものの、新しい技術はなかった」と、複数の自動車技術関係者は口をそろえる。

 とはいえ、トヨタの燃料電池車関連の特許を他社が精査するのはこれからだ。むしろ今回の決定は、「経験のあるトヨタの技術者が手間をいとわず逐一サポートする姿勢」(長島聡・ローランド・ベルガー日本共同代表)と取れる。ひいては、「原油に頼る車は将来厳しくなる」と、国を背負って真剣に考えていることの表れなのだろう。