相続増税、純金仏像で対策? 年明け中流層にも対象拡大

相続税増税が2015年1月に迫り、新たに課税される可能性がある人たちが対策に走っている。無縁だった中流層でも、都市部に家を持つ世帯を中心に対象が広がるためだ。相続税対策を売りにする業界は、「商機」とばかりに「相続マネー」の取り込みに力を入れる。

■金製の仏具、不動産投資セミナー

 クリスマスを控えた東京・銀座の貴金属店。指輪やネックレスが並ぶ店内で、都内の夫婦は純金製の仏像や18金のお鈴(りん)に目を止めた。元会社員の夫(73)に店外で話を聞くと、「相続税がかからないんでしょ。うちにも仏壇があるので興味があって」と話した。

 墓石や仏壇、仏具など日常的に礼拝するものは相続税が非課税になる。貴金属として価値があり、「安全資産」とされる金の仏具を買うことで節税効果を期待する人が増えている。

 金製品を扱う「SGC」(東京)によると、増税が具体化し始めた約3年前から金製仏具の売り上げが増え続け、今年の売れ行きも前年の3割増。人気は幅9センチのお鈴(400万円前後)で、何年かかけて仏像や位牌(いはい)、花入れなど4千万〜5千万円のセットを買いそろえる人もいるという。

 ただ、金製仏具でも、骨董(こっとう)などとして投資目的で持てば課税対象となり得る。そのうえ節税効果には疑問の声も。SGCの石井勝之執行役員は「売り上げアップはありがたい」としつつ、「仏具の価格には加工料が含まれる。売却時の相場によっては損をする可能性がある」と釘を刺す。

 「今からできることを一緒に確認しましょう」。今月18日、三井住友信託銀行目黒支店の「課税強化直前セミナー」。相続の専門行員が、不動産を活用した相続対策などを参加者約20人に説明した。自宅を含むマンション2戸を持つ東京都目黒区の会社顧問の男性(69)は、法改正で税負担がどうなるかが心配で参加したという。「自分の家の評価額も知らない。勉強しないと」。セミナーは10月から全国の支店で開かれ、約7500人が参加した。

 別の日にあった辻・本郷税理士法人(東京)のセミナー。参加した世田谷区の元会社員の男性(63)は、自宅の敷地を高齢の母と共有する。「相続のことは何も準備していなかった。みんなで話し合いたい」。同法人の大沼蔵人・経営企画室次長は「参加者の大半は相続に関係がないと思っていた人。制度について誤解や勘違いをしている人も多い」と話す。

 西武線所沢駅の近くにある閑静な住宅地。1階が元自営業の男性(76)の自宅、2階部分が賃貸アパートとなる住宅の建設が、急ピッチで進んでいた。

 増税を知り、今夏に男性が試算すると、宅地と預金などの財産が、来年以降は新たに課税対象になると判明。相続税額は300万円近くになるという。会社員の長男(49)は昨年、多額のローンで家を買ったばかりで、負担は重い。

 「息子に迷惑をかけたくない」と税理士に相談し、自宅を賃貸併用住宅に建て替えることに。不動産評価額が2千万円以上も下がり、相続税がなくなると助言された。「都心から遠くに住む自分たちが、よもや対象になるとは。でもこれで、まさかのときも大丈夫」。男性はほほ笑んだ。