ホンダ任せ、米側の感情逆なで 対応見誤ったタカタ… ソニー失敗の教訓生かせず

タカタ製エアバッグが作動時に破裂して金属片をまき散らす恐れがある欠陥問題で、ホンダは9日、全米で実施を決めた調査リコール(回収・無償修理)に準じる措置を世界各地に広げる方向で検討を始めた。原因が特定された正式なリコールと合わせて対象は累計1200万台を超える規模になる見通しだ。ホンダをはじめ自動車メーカーは利用者の安全確保に向けて動く一方で、タカタはリコール要請を事実上拒否し、自動車メーカーのリコールを全力で支援する考えを示すにとどまる。製造者としての安全責任が問われる。

 調査リコールは原因が特定できない段階の予防的措置。ホンダは「対象地域や規模は精査中」(広報)だが、日米に加え中国、豪州などにも拡大するもようだ。米国では調査リコール対象をこれまでの南部などの高温多湿地域から全米に広げた。

 また、国内でも原因究明のための自主的な調査リコールを行うと国土交通省に報告した。6車種、計13万4584台を回収して部品を交換する。マツダも約5万2000台について同様の措置を取る方向で検討している。

 日本では調査リコールの制度はないが、利用者の安全確保を重視して国交省が自動車メーカーに実施を指示したことを受けて、これに準じた措置を取る。国内では初の試みだ。

 一方、タカタの動きは鈍い。9年半前には自動車安全への貢献を認められ、米道路交通安全局(NHTSA)の特別功労賞を部品メーカーとして初めて受賞したのがうそのようだ。2005年6月6日、ワシントンでの国際会議で、満面に笑みを浮かべたタカタの高田重一郎社長(当時)が「一人でも多くの命を守るため、安全装置の研究開発に真摯(しんし)に取り組んだ努力が認められた」と喜びを語った。

 「何人死者が出ればリコールを全米に拡大するのか!」。今月3日に米下院で開かれた公聴会でタカタに対する批判が吹き荒れた。タカタ製エアバッグが原因とみられる事故で少なくとも3人が死亡している。タカタは清水博品質保証本部シニアバイスプレジデントが自動車メーカーのリコールを全力で支援する考えを説明したが、議論はかみ合わず、NHTSA幹部は「タカタの対応には失望した」と切り捨てた。

 NHTSAは公聴会に先立ち調査を目的にメーカーが特定の地域で行う調査リコールを全米に拡大するよう要請していた。だが、部品メーカーへのリコール要請は異例とあって、タカタは事実上拒否。全米リコールを決断したホンダとは対照的な非協力的な対応は米側の感情を逆なでした。NHTSAは今後タカタが提出した書類やヒアリングでエアバッグの欠陥を明らかにし、強制リコールに踏み切る構え。従わない場合は訴訟も辞さない意向を示している。

 タカタ問題がこれほど拡大した背景には部品メーカーは“裏方”との意識ゆえに対応が後手に回ったことが挙げられる。過去にも同様の事例があった。06年、ソニー製のパソコン用リチウムイオン電池に発火の恐れがあるとして米パソコン大手のデル、アップルコンピュータ(当時)などがリコールを実施。ソニーは当初、パソコンメーカーに対応を任せたが、消費者の不安は収まらずソニーの情報開示や対応の遅れに批判が集中した。

 ソニーは事態を沈静化するため、同年9月に事故原因が完全には究明できていない段階で全面的な自主回収を決定。510億円の費用をかけ、全世界で960万個のリチウムイオン電池を回収することになった。リコールを消費者に説明するのは本来、最終製品を作るパソコンメーカーの役割だ。ソニー関係者は「米国でのリコールにはCPSC(消費者製品安全委員会)との調整が必要で、勝手に動けなかった。不具合が起きる確率は少なく、リコールをしたがらないメーカーもあった」と振り返る。

 ソニーの前例は、消費者の関心が高い大規模リコールでは製造責任がある部品メーカーが前面に出なければ信頼回復が難しいことを示す。だが、タカタは「われわれはお客さまの連絡先も知らない」(広報)として全米リコールの判断を自動車メーカーに委ねる姿勢を崩さない。

 消費者意識が高い米国での対応を見誤ったという意味では、2009〜10年にトヨタ自動車が起こした大量リコール問題とも共通する。トヨタ車の「意図しない急加速」が指摘され、被害を名乗り出たユーザーがテレビに相次いで登場。トヨタは「(急加速の原因とされる)電子制御システムに問題はない」と説明を繰り返したが、全米で“トヨタたたき”が巻き起こった。騒動は豊田章男社長が自ら公聴会に出席して真摯(しんし)に謝罪したことで収束に向かい、米運輸省も最終的に「電子制御システムに欠陥は発見できなかった」との調査結果を出した。

 一方、高田重一郎氏の長男に当たる現会長の重久氏は、大量リコールをめぐり記者会見を行わず、米国での公聴会にも出席していない。コンプライアンスに詳しい郷原信郎弁護士は「ここまで騒ぎが大きくなる前に、タカタが主体的に説明責任を果たすべきだった」と指摘する。終わりが見えないリコール騒動。他社の失敗を教訓にして信頼回復の道を歩むことができるのか、タカタの対応が問われている。