「自民300議席」予測の衝撃 野党連携の効果見えず

朝日新聞などの全国紙が4日付朝刊で、衆院選の序盤情勢調査を踏まえて自公圧勝の勢いを報じ、野党に衝撃が走った。特に民主党、維新の党は選挙協力が機能せず、政策のアピールを含めた選挙戦略を立て直そうとしている。一方、議席減も予想していた自民党は勢いづき、民主党首脳の選挙区を中心に攻め込むなど、手を緩める様子はない。

■民主「郵政解散のような熱気ないのに」

 新聞各社のホームページに選挙戦序盤の情勢がアップされ始めた3日夜。民主党本部に置かれた選挙対策本部は「お通夜のよう」(出席者の一人)だった。

 「衝撃的な数字だ」「郵政解散のような熱気が自民党にないのになぜだ」――。こんな声が飛びかった。

 党内には公示前から「有権者は『民主党はどうしたいのか』と戸惑っている」(党関係者)と、安倍政権との対立軸を示せていないとの危機感があった。解散後、独自色を出そうと「子どもが生まれると50万円支給」という子育て支援策の案も浮上したが、妙案のないまま選挙戦に突入した。

 「まだ半数近くの有権者が態度を決めかねている」。海江田万里代表は4日、候補者にこんな檄文(げきぶん)を送り、党内を鼓舞した。党幹部の一人は「天下り規制など、民主党政権時代の実績を強調する」と語り、街頭演説が「アベノミクス批判」だけにならないよう戦術を切り替える方針だ。

 公示前に駆け込みで実現した野党間の選挙協力も効果が出ていない。

 2、3日の朝日新聞の情勢調査の対象選挙区のうち「自民VS.民主VS.共産」の対決構図となった選挙区で、民主候補への維新支持層の支持は平均6割止まり。自民候補への支持が3割もあった。「自民VS.維新VS.共産」でも、維新候補への民主支持層の支持は5割だ。

 野党候補の乱立で共倒れした2012年衆院選の反省から、今回は共産党を除く野党が190超の選挙区で候補者を一本化した。だが、民主と維新は互いを支援する体制がとれず、むしろ相手を批判するほどだ。

 「民主は反対ばかりだからダメだ。どう日本経済を復活させるのか、民主には何の案もない」。維新の橋下徹代表(大阪市長)は4日、福岡県新宮町での演説で民主を厳しく批判した。

 こうした現実に、朝日新聞が情勢調査と同時に実施した世論調査では「自民党に対抗できる政党として期待できる党」について「特にない」が41%を占め、民主党は20%、維新の党は8%にとどまった。

 一方、政権批判票は共産党に集まる傾向だ。志位和夫委員長は4日、「自民党暴走のストッパーとして、共産党が伸びないといけない」と強調した。

■自民も驚き、緩みを警戒

 自民党内にも驚きの声があがった。2年前の衆院選で大勝しただけに「必ず減る選挙だ」(党幹部)との見方があり、党総裁の安倍晋三首相も勝敗ラインについて「自公で過半数」と予防線を張ったほどだったからだ。

 党幹部は圧勝ムードによる緩みを引き締めようと躍起だ。谷垣禎一幹事長と茂木敏充選挙対策委員長は4日、連名で全候補者に「厳しい選挙戦であることに変わりはない。候補者本人の気の緩みが、最終的には有権者にも必ず伝わる」などとする緊急通達を出した。首相も自らのフェイスブックに「油断した方が必ず負ける」と書き込んだ。

 党内には公示前、解散の理由がわかりにくいとの批判や、アベノミクスの恩恵が地方や中小企業に波及していないとされることへの不安もあった。

 しかし、自民単独で300議席を超えるとの分析に、期待感は依然高いと判断。首相の演説も、公示日はアベノミクスの割合が約4割だったが、この日はほぼ一色に染まった。官邸幹部は「前回衆院選で維新など『第三極』に流れた無党派層は自民に来る」とみる。

 自信を深める自民は、民主の海江田代表や枝野幸男幹事長らの選挙区のほか、維新の発祥の地・大阪に党幹部を集中的に投入。野党の中枢に打撃を与えようと強気の戦略を描く。

 ただ、朝日新聞の最近の世論調査では安倍内閣の支持率は40%前後で横ばいだ。閣僚の一人は「有権者は『自民がましだ』というだけで、手応えがない」と上滑りを警戒する。

 一方、公明党は複雑だ。山口那津男代表は4日、東京都内での演説で「自民だけ議席が増えて良い政治ができるのか」と訴えた。自民一人勝ちで公明党の発言力が弱まると、憲法改正などの動きが止められなくなるとの懸念があるからだ。

■衆院選情勢に関する4日付朝刊各紙の見出し

朝日新聞  「自民、300議席超す勢い」

毎日新聞  「自民300議席超す勢い」

読売新聞  「自公 300超す勢い」

日本経済新聞「自民、300議席うかがう」

(東京本社発行最終版から。朝日新聞は独自調査、毎日新聞は共同通信の調査、読売紙面によると読売と日経は協力して調査し、集計・分析・記事作成は両社が独自に行った)