デジカメを抜いたチェキ 富士フイルムの“残存者利得”

先が見えないデジタルカメラの不振を尻目に、今上期前年同期比80%プラスという驚異的な販売増を示しているカメラがある。富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」だ。

同社は今年度のチェキの見込み販売台数300万台を350万台に上方修正。需要増に応えるため工場で約30%の増産を行うという。

 とはいえ予想外の復活劇だった。チェキはデジカメの普及に伴い市場が縮小。2002年にそれまでの出荷台数ピーク100万台を記録した後、販売が毎年激減し、一時は撤退寸前だったという。

 潮目が変わったのは07年だった。韓国のドラマ中で使われたことがきっかけで、韓国、中国などアジアの若年層を中心にヒットしたのだ。これを受けて、それまで国内中心だった営業体制を海外メインに切り替え、12年には海外市場狙いの新商品も発売。それ以降、販売は伸び続けた。

 現在、主力市場であるアジアに加え、米ウォルマートの全米3800店舗で販売するほか、欧州の高級デパートやセレクトショップなどにも販路を拡大する。すでに販売台数の9割が海外市場向けで、今後進出していないインドや東南アジアなどの開拓を行い、「16年までには500万台の大台に乗せる」(山元正人・富士フイルムイメージング事業部長)計画だという。

● アナログのノウハウが決め手

 チェキの復活は“残存者利得”に他ならない。撮影とプリントを1台のカメラで行うインスタントカメラは、米ポラロイド社が経営破綻して製品生産を中止した後、世界でもチェキしか残っていない。

 アナログの極致ともいえる製品だが、実は現像技術と、カメラの機構部分の両方とも同社がノウハウを握っており、他社は模倣できない。その上、消耗品もサードパーティが作ることができないため、事業としてもうまみがあるというわけだ。

 一方、スマートフォンに押され、コンパクトデジカメ市場の縮小はいまだ止まらない状況にある。世界市場はピーク時の4分の1程度に落ち込み「まだ底が見えない」(大手カメラメーカー幹部)。ちなみに富士フイルムのデジカメ出荷台数は200万台で、すでにチェキの方が上回る規模となった。

 デジカメやカメラ付き携帯電話やスマホしか知らないデジタルネーティブ若年層に、撮影したその場でプリントができ、その場で余白にメッセージや落書きが書き込めることが逆に新鮮とされ、新たな客層をつかんだチェキ。「スマホのカメラやデジカメとは全く違う商品として認識されるようになっている」(山元事業部長)。

 今後はハローキティデザインモデルや、画角の大きい本格的な写真が撮れる上位機種なども発売。若年層のみならず北米などで“大人”の需要も狙いにいくという。残存者が図らずも新ジャンルをつくった。