ホンダ挑戦、航空ジェットエンジンに勝算 自動車技術を武器に独自開発貫く

ホンダが航空機用ジェットエンジン事業に本格的に乗り出した。来年納入予定のビジネスジェット機「ホンダジェット」に搭載するだけでなく、外販にも力を入れる。航空機エンジン市場は欧米勢が上位を独占し、国内もIHIなど重機メーカーが中心で、新規参入のハードルは高い。だが、ホンダは自動車で培った技術を武器に、風穴を開けようとしている。

 「ホンダは基本的にエンジン会社。(四輪用や汎用など)世界で一番エンジンを造っている。『たいまつは自分の手で』というのがホンダの文化だ」。今月16日に東京・青山の本社で開いた説明会。ジェットエンジンを自ら手がける理由を問われた本田技術研究所の藁谷(わらがい)篤邦取締役は、創業者の本田宗一郎氏とともにホンダの礎を築いた藤沢武夫氏の言葉を挙げて説明した。

 21日にはエンジンの修理拠点の選定や、欧米などでのサービス拠点の構築を発表。ホンダジェットとともに、着々と販売態勢を整えている。そもそも航空産業は一般的に機体とエンジンは別のメーカーが担当する。機体は米ボーイングと欧エアバス、エンジンは米ゼネラル・エレクトリック(GE)と米プラット・アンド・ホイットニー(P&W)、英ロールス・ロイスが高いシェアを持つ。だが、ホンダは機体だけでなく、エンジンも開発する。

 実は、ホンダのジェットエンジン開発の歴史は古く、1960年代に研究を始めた。86年に基礎技術研究センターを開設し開発を本格化。2分の1重量車、自動運転、ロボットと並び、ジェットエンジンと航空機が主要テーマに設定された。

 事業化に大きく前進したのは2004年のGEとの合弁会社「Honda GE」設立。エンジンを実際に旅客機に載せて飛ぶには「世界の基準」である米連邦航空局(FAA)から安全性の認証を得る必要がある。しかし「自社だけでくぐり抜けるのは難しい」(藁谷取締役)。GEと組めば試験設備も含め、認証取得のノウハウや設計技術が手に入るからだ。

 合弁会社が開発し昨年末にFAAの型式承認を取得した「HF120」エンジンは、GEの優れた高圧タービンなどに、ホンダが四輪で培った燃料制御などの技術を組み合わせた。燃費は競合品に比べて10%以上改善し、長寿命で環境負荷も少ない。価格は高いが、「価格競争に入らないよう(性能で)差別化する」(同)狙いだ。

 ホンダは、ホンダジェットと同クラスのビジネスジェットの市場規模が20年に300〜400機に拡大すると予測。エンジンはP&Wと米ウィリアムズの2強が独占しているが、「将来は市場の3分の1の販売を目指す」(同)と鼻息は荒い。100機以上受注しているホンダジェットの販売を増やしてエンジンの台数を稼ぎ、外販でさらに上積みしたい考えだ。

 もっとも黒字化には5年以上かかる見込みで、投資を回収しグループの収益に貢献するまでの道のりは長い。航空産業で成功するには製品だけでなくアフターサービスなども不可欠だ。

 それでも「ある台数を売ってしまえば(部品交換の収入などで)安定したビジネスになる」と本田技術研究所の山本芳春社長は強気だ。ジェットエンジン開発を通じ、車のターボ技術の改善などにつなげられるメリットもある。どこまで「たいまつ」を掲げ続けることができるか。ホンダのチャレンジスピリットが試される。