スカイマーク“茨の道”…エアバス違約金問題、独立路線に限界指摘も

20141020-00000502-biz_san-000-2-view国内航空3位のスカイマークが、欧州航空機大手のエアバスから超大型旅客機「A380」6機の売買契約解除を通告されて2カ月余り。エアバスに突きつけられた7億ドル(約760億円)の違約金の減額に向けた交渉が大詰めを迎えている。エアバスはスカイマークの経営負担に配慮し、減額に応じる方向だ。当面の危機を脱する方向になりつつあるスカイマークだが、足元では赤字が拡大し財務体質も弱体化。自力での経営立て直しは見通せず、他社からの出資や買収に局面が移るとの観測も根強い。

■違約金は減額の方向

9月29日、地中海に面したフランス南部のとある都市。スカイマークの西久保慎一社長はここで、エアバスの営業担当トップの副社長と顔を合わせていた。この会談で2人は、A380の売買契約解除問題を10月中に解決することや、違約金についてはスカイマークの財務への影響を小さくするよう配慮することで合意した。

両社は違約金の減額幅などを詰めており、スカイマークがエアバスにすでに支払った前払い金約250億円の範囲内で決着する方向で調整しているようだ。

そもそもこの問題はスカイマークが2011年、約1915億円を投じて6機のA380を購入する契約をエアバスと締結したことに始まる。ところが、その後台頭してきたLCC(格安航空会社)との価格競争や円安に伴う燃料費高騰もあって経営環境が悪化。今年4月からエアバスと契約見直し交渉を始めたが難航し、エアバスは7月に契約解除の通告を突きつけるとともに巨額の違約金を求めてきたのだ。

エアバスは当初、「契約に基づくあらゆる権利と救済手段を行使する」と強硬姿勢だった。だが、これには「交渉戦術上、吹っかけているだけだ」(航空関係者)との声が多かった。

問題となっていた6機のうち、建造が進んでいた2機は他の航空会社に売れる見通しとなったもようで、エアバスの実損が減るめどが立ち、態度を軟化させたとみられる。また、スカイマークはエアバスの中型機「A330」を導入する顧客でもあるという事情も働いたようだ。

■足元は火の車

足元の最大の懸案だったエアバスとの違約金問題が現実的な形で決着する方向となったとはいえ、これでスカイマークが窮地を脱出したわけでは決してない。

というのも、足元の業績はまさに火の車に近い状態だからだ。2014年4〜6月期決算(単体)は営業損益が55億円の赤字(前年同期は24億円の赤字)、最終損益も57億円の赤字(同12億円の赤字)に拡大。違約金問題も理由の1つになったが、決算短信に「(事業継続に)重要な疑義を生じさせるような状況が存在する」と注記が付いた。

SMBC日興証券の長谷川浩史アナリストが「違約金の額が最終的にいくらで決着するにしても、今後も収益性の改善を粛々と進めていく必要がある」と指摘するように、いばらの道はまだ終わりそうにない。

新興航空会社のスカイマークは、大手の日本航空や全日本空輸よりも割安な運賃を武器に事業を拡大してきた。だがこの数年は、新たなライバルとなったLCCの便数が増加。燃料コストを押し上げる円安がじわじわと進んだのも痛手だ。

■不採算路線を運休

スカイマークの経営陣も“止血”の必要性は重々承知している。苦戦していた成田空港発着の3路線などを10月26日から運休すると決めた一方、残るほとんどの路線で通常期の大人普通運賃を最大約69%値上げするなどの対策を取った。

それでも、ある大手航空会社の役員は「他にも搭乗率が低迷する路線はまだある」と語り、不採算路線の一段の整理が欠かせないとみる。さらに、今後のリース料の支払いを抑えるために「成田撤退などに伴って余ったリース機材の返却を早急に進める必要がある」(SMBC日興証券の長谷川氏)との指摘もある。

ただ経営合理化を図るとしても、元手となるリストラ費用が必要となる。ピーク時に300億円を超えていた手元資金は、今年6月末時点で72億円まで減少。売却できる資産もほとんどない上、無借金経営を掲げているため親密な付き合いのある銀行もない。自力でリストラ費用をまかなえるかどうか疑問符が付く。

こうした事情を踏まえ、ある金融関係者は「彼らがこのまま独立路線で経営を続けていけるとは考えられない」との見方を示す。

仮に自力での再建が難しい場合は、他社による出資や買収といったシナリオが現実味を帯びることになる。

■ドル箱路線を保有

スカイマークは、航空会社にとって“ドル箱”とされる羽田空港の発着枠を国内線で1日36枠も持っている。1枠あたり年間約20億円の売上高が見込めるとされ、「収益性の高い羽田発着の路線に特化して、無謀なことさえしなければ、もともとはやっていける会社のはず」との声は多い。

羽田の発着枠は他の航空会社にとっても垂涎(すいぜん)の的だ。日本再参入を目指すマレーシアのLCC大手エアアジア、米デルタ航空などがスカイマークの支援に興味を持っているとうわさされる。だが国土交通省航空局幹部は「発着枠はスカイマークに配分したのであり、会社がスカイマークでなくなれば回収することになる」としており、扱いは同省の裁量次第だ。

スカイマークへの出資や買収に関心を持つ他の航空会社や投資ファンドなどにとってはこれまで、エアバスとの違約金問題が大きなリスク要因となっていた。金融関係者は「違約金問題が片付けば(彼らは)黙っておらず、新たな局面に移る可能性が高い」とみる。

その場合にも関門が立ちはだかる。スカイマークは西久保社長が発行済み株式総数の約3割を握る筆頭株主だ。西久保社長は「超ワンマン」として知られ、自主経営にこだわりを示してきただけに、航空業界や市場は「結局は西久保社長がどう判断するかだ」と今後の推移を見守っている。