好調マルエツ、イオン傘下でも戦略は真逆
「震災以降、コンビニにとられまくっていたマーケットが、徐々に食品スーパーに戻ってきた。その差は素材の扱いがあるかないか、だ」――。首都圏の大手食品スーパー、マルエツが10月9日に発表した中間決算は、生鮮3品の拡販を背景に、上期の既存店売上高が前年同期比で4.9%増となった。営業利益は7月29日に発表した上方修正の見通しをさらに上回る23億円(前年同期比2.3倍)と好調だっこともあり、上田真社長からは強気の発言が相次いだ。■ 安さ一辺倒ではダメ
好決算のキーワードは「上質商品」「大量目」そして「素材回帰」だ。
マルエツでは今上期、集客のために青果の価格を引き下げ、精肉などで上質商品や大量目商品を拡充した。「20年間続いたデフレ下であれば、一品価格を下げて買上点数を増やすのがセオリーだが、あえて上質商品を売り込んで単価を上げていく戦略を取った」(上田社長)。また、従来なら核家族化や高齢化、個食化を背景に、バラ売りや少量目販売が主体だったが、量目の多い商品の販売を推し進めた。
アベノミクス効果による株高や円安とは裏腹に、消費増税や物価高が消費を圧迫していることも間違いない。だが、上田社長は「消費が2極化し、ベースアップや賞与の増加などから食品(の消費)に対しては余力、余裕のある方も大勢いる。このマーケットも取りに行く必要がある」と語る。
通常、同社では節約志向が高まると、牛肉の販売額が減り、豚肉・鶏肉が伸びる傾向があったが、今上期に最も伸びたのは牛肉だった。「これは、おいしい商品を食べたいマーケットがあるということ」(上田社長)。さらに、牛肉の中で伸び率が一番高かったのは、最も低価格の味付け肉で、次いで仙台牛や神戸牛など最も高い銘柄和牛だった。このため、「安さ一辺倒ではダメだと言うこと。安さに対応するだけなら既存店売上高は前年同期比95%いかない」とし、2極化対応の必要性を話す。
これまでと違う販売動向はほかにも見られた。マルエツでは生鮮が好調だった一方で、近年、人気商品だったパウチ総菜や冷凍食品が落ち込んだのだ。上田社長は「昨年くらいまで、冷食は(売り場の)花形で、今後さらに伸長する、生鮮も素材がどんどん落ちてデリカ化が進む。業界でも、私もそう言っていたが、もしそれを進めていたら、とんでもないことに(ひどい決算に)なっていたと思う。”作らない化”の対応を推し進めると、実は大きなマーケットを取り逃がすことになる。素材回帰、内食回帰の流れがある」とする。
■ イオンと真逆の戦略が奏功?
上期の青果販売は11%増と好調だったが、その中でもっとも伸びたのがジャガイモやタマネギなど、いわゆる「土物」だった。これは火を通し調理しなければ食べられない。「出来合いの商品よりも精選の素材を組み合わせた方が割安ということがあるのは事実だが、一方で手間ひまをかけた方がおいしい物、安全なものへの関心が高まっている」(上田社長)。素材回帰の背景には、昨年末の冷凍食品の異物混入事件や中国からの輸入素材を背景にした消費者の安心・安全志向があると考えられる。
マルエツ、カスミ、マックスバリュ関東の3社は、首都圏における「スーパーマーケット連合」創設のため、それぞれの屋号はそのままに、来年3月に共同持株会社を設立する。その会社はイオンの子会社となるが、上田社長が推し進める戦略は、イオンの商品・価格戦略とは真逆だ。
■ 都市部ではイオンを追撃?
なぜなら、イオンはあくまで低価格を重視し、作らない化に対応した総菜を重視しているからだ。同じグループ内でも戦略は180度異なり、マルエツの営業利益が2.3倍に拡大したのに対し、イオンは上期に総合スーパー事業が131億円の営業赤字、食品スーパー・ドラッグストア・小型店は前年同期比で8割減益となり、業績面で大きく明暗を分けた。
戦略の違いは商品面だけではない。イオンは建設コスト上昇を背景に大型モールの出店を先送りすることを表明している。投資規模は異なるが、マルエツは今期10店に続き、来期も18店の出店を予定する。「確かに建設コストは、10〜15%程度は上昇し、人が集まりにくく工期が遅れがちだ。だが、現在は長いデフレから脱却し、唯一、(業容を)拡大できる機会。何もしないリスクよりも何かをするリスクを取るべきだ」(上田社長)と出店意欲が旺盛だ。
また現在56店で展開する都市部小型スーパー「マルエツプチ」を早期に100店に増やし、年商500億円(14年2月期は290億円)を目指すことも今回表明した。これには、すでに500店を突破したイオンの同業態「まいばすけっと」を早期に追撃しようという意欲を感じさせるものがある。我が道を行く戦略で好決算をたたき出した”身内”のマルエツを、本業が赤字に陥ったイオンの岡田元也社長はどのように見ているのだろうか。