ローソン、成城石井を買収 ドタバタ交渉の“舞台裏”

コンビニエンスストア大手のローソンが、高級スーパーを展開する成城石井を買収する。しかし、その道筋は平たんではなかった。

 「期限のない入札なんて聞いたことがない」

 今年8月下旬、ローソンのある幹部はこうぼやいていた。

 「550億円まで出す」。ローソンが取締役会でそう決めたのは8月5日のこと。すぐさま成城石井の全株式を保有する投資ファンド、丸の内キャピタルの入札に参加したものの、いつまでたっても結果が明らかにされなかったからだ。

 入札が不調に終わった理由は単純明快。丸の内キャピタルが望む金額に達していなかったからだ。

 関係者によると、丸の内キャピタルが当初想定していた売却額は650億〜700億円。2011年5月に成城石井を買収した際の金額が約420億円だったから、「かなり強気だ」(関係者)との見方がもっぱらだった。

 それだけに、ローソンはもちろん、やはり入札に参加した三越伊勢丹ホールディングスの提示額も想定から懸け離れたものだった。

 もくろみが外れた丸の内キャピタルは、売却額をつり上げる「カード」を切る。成城石井の新規株式公開(IPO)の検討に本格的に着手したのだ。だが、こちらも丸の内キャピタルが願ったほどの値は付かず、関係者の間では、「ローソンは株式公開後に底値で買った方が得なのではないか」と軽口をたたかれる始末だった。

そうした経緯を経て、丸の内キャピタルは9月に入り再度ローソンと価格交渉を行い、結局、8月の取締役会の段階で決めていた上限額で、売却交渉はまとまった。

● 三菱系の出来レース? 

 ローソンは、買収総額約550億円のうち363億円で株式を取得し、残りは負債の相殺などに充てる予定だ。

 ローソン幹部は、成城石井について「スーパーというよりも、小商圏型の製造小売業というコンビニに近い業態」と説明。買収後も成城石井の屋号を残す他、商品構成や体制には手を付けず、仕入れの一本化も考えていないという。

 この幹部は「成城石井が好調なうちは特段手を付ける必要はない」と説明し、コンビニで培った店舗開発のノウハウや顧客分析などで後方支援し、さらに“稼げる体質”に改善すると強調する。だが、何を目指しての買収だったのか、業界関係者は首をかしげる。

 丸の内キャピタルはローソンの大株主の三菱商事と、三菱UFJ証券ホールディングスが50%ずつ出資する三菱系の投資ファンドである。

 そのため、ある業界関係者は「成城石井の負債をローソンに付け替え、三菱グループ全体でハッピーになろうという出来レースではないか」と冷ややかに見る。

 果たしてローソンは成城石井をさらに成長させることができるか。「高い買い物」との批判を浴びぬよう、力量が試されている。