住商 社長「見方甘かった」 シェールオイル開発撤退

住友商事が米国でのシェールオイル開発事業の失敗などで、巨額の損失を計上する見通しとなり、新たなエネルギー資源として産業界から期待が高まっていたシェール資源開発のリスクが浮き彫りとなった。住商は三菱商事など競合他社より遅れていた資源分野を同事業で強化する方針だったが、資源事業全体を見直さねばならなくなり、経営への影響は深刻だ。【種市房子、神崎修一】

 「見方が甘いと言われたら(そう)受け止めねばならない」。中村邦晴社長は29日、東京都内で記者会見し、険しい表情を見せた。

 住商は2012年から子会社を通じ、米テキサス州でのシェールオイルやガスを採掘する事業に米資源開発会社と共同参画してきた。権益費や設備で既に約19億ドル(約2000億円)を投資している。しかし試掘により、想定より地層が複雑で、地点によって水が大量に混じっていることが判明。掘削を続けるには費用が膨れあがるため、井戸や掘削機などの設備を売却し、事業から撤退することを決めた。一部地域の試掘は続けるが、今後は将来の収益性を慎重に判断して対応する。

 住商は、ケーブルテレビやスーパー・ドラッグストア事業などの「非資源」分野が強みで、資源分野は弱かった。このため「事業のバランスを考え、シェールへの投資を決めた」(中村社長)といい、資源分野の資産を現在の15%から、創立100周年の2019年度までに20%に引き上げる計画だった。だがシェール資源開発のつまずきで計画変更は必至だ。中村社長は「(来年度策定する)中期経営計画で見直す必要がある」と指摘、資源分野の縮小も示唆した。

 再発防止策としては、社内で資源関連の戦略を抜本的に見直す検討チームと、総務・管理部門を対象とする「経営改革特別委員会」の2組織の設置を決め、投資リスク管理などを徹底する方針だ。

 中村社長は経営責任について、「一刻も早く成長軌道に乗せるのが私の責務」として早期の辞任を否定したが、立て直しの行方は見通せない。

 ◇各社、相次ぎ米参入 安価なエネルギーに期待

 大手商社やエネルギー事業会社は2000年代後半以降、米国でのシェールオイル・ガスの開発に相次いで参画している。掘削技術の発達で大量生産にメドがついたことで、安価なエネルギー資源や化学品などの原材料になると見込んだからだ。

 三井物産は2010年以降、米テキサス、ペンシルベニア両州で、米石油・ガス開発大手アナダルコと組んで参画。既にパイプラインを通じて米国内でオイルやガスを販売している。三菱商事もカナダのブリティッシュコロンビア州で開発に取り組んでいる。

 だが事業は必ずしも順調ではない。大阪ガスは米テキサス州でシェールガスの開発を進めてきたが、想定した量を生産できないとして14年3月期に290億円の特別損失を計上し、大半の事業から撤退した。三井物産や伊藤忠も14年3月期に損失を出している。

 エネルギー業界に詳しいアナリストは「シェール資源の開発は、開発手法が科学的に十分確立されておらず、誰でもできるわけではない。開発リスクは大きい」と指摘する。【山口知】

 住友商事の中村邦晴社長の記者会見での主なやりとりは以下の通り。

 −−シェールガス事業に投資を決めた理由は

 住友商事は石油やガス、石炭の(エネルギー)事業が少なかった。事業のバランスをどうするか考え、シェールに投資することを決めた。検証した結果、(原油がでるという)確度が高いことが分かり、投資を決めた。

−−今後の対応は。経営責任についてどう考えるか。

 (リスク管理体制の再強化が目的の)経営改革特別委員会が既にスタートしており、ここでの提言を中期経営計画に盛り込んでいきたい。経営者としての責任については、一刻も早く成長軌道に戻すのが私の責務だ。

 −−経営判断に問題なかったか

 調査については慎重に行った。ただ地下にあるものは目に見えるものでない。隣接地域で出ても、我々の地域はでなかったということだ。これについて見方が甘かったと言われればそうかもしれない。リスクについてもいろいろ考えた決定した。

 −−損失を計上した以外の事業で、改めて損失を計上される可能性は

 資源関係については、市況価格が半分ぐらいになる大幅な下落があれば損失の可能性もあるが、現時点から大きく下がらなければ損失の可能性はない。