「小僧寿し」や「京樽」…… 不振の続く「持ち帰り寿司」に未来はあるのか?

20140910-00000004-allabout-000-2-view持ち帰り寿司としては老舗の「小僧寿し」。その経営が揺らいでいる。たしかに最近テレビCMも見ないなあと感じた読者の方も少なからずいるのではないだろうか。「小僧寿し」は今年に入ってから不透明な資金の流れが複数回あったり、リストラを始めたりしている。社内外から経営改革案を募っているように、なりふり構わない姿を見れば、かなり苦しい状況であることは誰の目から見ても明らかだ。

 厳しい言い方だが、一言で言えば「経営者に資質がなかった」と言わざるをえない。経営のビジョンも曖昧で、計画や管理も杜撰だから不透明な資金ができてしまう。にっちもさっちもいかなくなって、会社とはまったく関わりのない門外漢の意見まで募り、社員をリストラする。

 たしかに「小僧寿し」の経営はまずかった。しかし、持ち帰り寿司業界自体、下降線にある。例えば、「京樽」は1997年に会社更生法を適用し、現在は吉野家ホールディングスの傘下にある。現在は、持ち帰り寿司だけでなく店舗展開(すし三崎丸など)を展開している状況だ。

 今回は「持ち帰り寿司」の不振はなぜ起きているのかについてマーケティング観点から述べたい。「持ち帰り寿司」不振の理由は以下の点に集約できる。

■持ち帰り寿司、不振の理由1:回転寿司の登場

 かつて寿司とは、特別な日の食事だった。そして、小僧寿しが好調だった1980年代前後には回転寿司という業態自体がほとんど無かった。回転寿しの登場によって、持ち帰り寿司は苦境に追いやられていった。もともと持ち帰り寿司のメインターゲットはファミリーだ。そのファミリーが回転寿司に移動し始めた。

 お店で食べられるということ、寿司が回ってくるエンタテイメント的な楽しさは、今までにないメリットをファミリー層にもたらした。年々、味が美味しくなり、価格も安くなって、メニューのバリエーションは増えていった。子どもが食べられる「唐揚げ」「アイス」などもメニューに加わっていた。

 マーケティングの基本用語に4Pという言葉がある。Product、Price、Place、Promotionの頭文字を取ったものだ。今回の話に照らし合わせれば「味=Product」「Price=価格」において回転寿司は持ち帰り寿司に完勝し、「Place=立地」「Promotion=集客」についても優位に立ったのだ。

■持ち帰り寿司、不振の理由2:宅配寿司の登場

 持ち帰り寿司の競合は回転寿司だけではない。宅配寿司の普及も、持ち帰り寿司の存在価値を低めてしまった。持ち帰り寿司は、実は持ち帰りにくい。外で買って、持ち帰るには嵩張ったり、斜めになったりする。その点、宅配寿司は自宅に届けてくれる。

 また味という点においても、宅配寿司が年々クオリティを上げているレベルほど、「小僧寿し」や「京樽」には大きな進歩がなかった。さきほどの4Pで説明すれば、「味=Product」「Place=立地」において宅配寿司は持ち帰り寿司に完勝し、「Promotion=集客」「Price=価格」についても徐々に有利になって来たのだ。

 持ち帰り寿司は「外vs中」という争いでは回転寿司に負け、「中vs中」という争いでは宅配寿司に負けてしまった。苦境に陥るのは当然のことなのだ。

■持ち帰り寿司、不振の理由3:平均気温の上昇

 日本の平均気温は年々上昇している。この結果、夏場であれば炎天下の中、生ものである寿司を持ち帰ることはリスクが大きくなっている。環境という大きな意味でも、持ち帰り寿司を取り巻く状況は厳しくなってしまった。

■持ち帰り寿司に未来はあるのか

 今まで述べたように、持ち帰り寿司の未来は厳しいと言わざるをえない。今の市場で戦うには、味か価格の見直しは必須だ。

 これ以外に経営改善計画を真剣に策定するのであれば、経営に関わる数字をすべて把握するだけでなく、社員やFC店へのヒアリングをすることから始めたい。特に社員やFC店で働く人達には、今まで言う機会がなかった意見があるだろう。それが重要であることは前提だが、マーケティング視点だけで考えられるアイデアを二つほど挙げてみたい。この段階では仮説の域を抜けない点はご了承いただきたい。

■持ち帰り寿司の未来戦略作りのヒント1:「ならでは」要素を明確にする

 持ち帰り寿司の存在意義を再定義する。回転寿司でもなく、宅配寿司でもなく、コンビニやファストフードの持ち帰りでもない“持ち帰り寿司”の存在意義を見つけることが重要だ。その場合、味や価格に左右されにくいコンセプトを作ることから始めたい。仮に“サプライズ”や“ハッピー”をコンセプトにすれば、宅配寿司よりも豪華なパッケージを作り、お祝いのための寿司というポジションを獲得することも可能だろう。

 また最近の自宅パーティーの増加トレンドを踏まえて、みんなで盛り上がることを前提に、寿司にロシアンルーレットの要素を取り入れるという方法もある。“持ち帰り寿司”というポジションを守るならば、“持ち帰り寿司”でしか得られないUSP(独自の強み)を作ることが大事だ。

■持ち帰り寿司の未来戦略作りのヒント2:戦う場所を変える

 現在、日本の食文化は世界的にも人気がある。日本市場ではなくグローバル市場に目を向ければ、「小僧寿し」をはじめ、持ち帰り寿司の未来にも明かりが見えてくる。すでに日本でもFC化の展開を進めているので、直営店だけでなく海外の現地企業との合弁企業を設立したり、FC店舗を募るなどの方法もあるだろう。

 「小僧寿し」に関しては、持ち帰り寿司としての長い歴史が「古くささ」というマイナスのブランドイメージではなく、「日本の老舗」というプラスのブランドイメージにも変えられる。マーケティング視点から言えば、持ち帰り寿司が苦戦している現在の状況は、顧客の声をちゃんと聞かなかったり、競合分析が十分でなかったり、自社商品への評価が甘かったりと今までやるべきことをやってこなかった必然の結果だ。

 ただ、苦しい状況ではあるが、白旗を挙げる状況ではない。関係のない第三者にまで漫然と意見を募るよりも、やれることは数多くあるのだ。

■最後に

 持ち帰り寿司業界は、今のままでは近い将来消えて行くかもしれない。なぜなら消費者ニーズがそこになくなってしまったからだ。今必要なのは、人事や財務経理の手直し以上に、マーケティングの手直しだろう。そこに気づいて実行しない限り、10年後には業界自体が消えてしまうかもしれないのだ。