中学生 教諭への暴行など逮捕相次ぐ 警察介入是非で議論

今年4〜6月、埼玉県内の男子中学生6人が、教諭への暴行や傷害の容疑で同県警に相次いで逮捕されていたことが分かった。いずれも「胸ぐらをつかんだ」「胸を殴った」などで学校側が通報し、警察官らが現行犯で逮捕した。被害の程度が軽いケースでも学校への警察介入を進めるべきなのか、校内の問題は現場の責任で解決すべきか−−。識者らの意見も割れている。

 ◇埼玉「制止利かず通報」…教師の胸ぐらつかみ

 4月15日、草加市の中3男子2人が暴行容疑で逮捕されたケースは、同級生への指導が「気にくわない」と50代男性教諭の胸ぐらをつかみ、壁に押しつけるなどしたのが逮捕容疑となった。教諭にけがはなく、同市教委は「複数の教諭で対応しても制止が利かなかった」と通報理由を説明する。

 5月7日には、さいたま市の中3男子が頭髪を注意されたことに腹を立て、30代男性教諭の胸を殴るなどした暴行容疑で浦和西署に逮捕された。市教委は「以前から段階的に指導を積み上げてきた(が改善しなかった)」と強調。同署は「証拠隠滅の恐れがあるなど(法的な)要件がそろえば逮捕する。決して逮捕権の乱用ではない」とした。

 中学生の逮捕は全国で散見され、今年2月に札幌市で教諭の顔や胸を殴るなどし3週間のけがをさせた例や、同3月に兵庫県朝来市で教諭の顔付近を拳で殴った例などがある。しかし暴行の程度が軽く、短期間に逮捕が集中した点で埼玉県は異例だ。

 同県では、これまで積極的に学校と警察が連携してきた。2002年度に全国に先駆けて「スクールサポーター」制度を導入。県警の非常勤職員が要請を受けて校内をパトロールしたり、問題を起こす生徒とその保護者への指導を行ったりしてきた。現在は元警察官37人と元教員3人の計40人が活動する。03年度には、学校と警察が「必要に応じて協力する」と明記した協定が結ばれた。

 1980年代に放映されたテレビドラマ「3年B組金八先生」は、主人公の生徒が逮捕されるシーンが話題を呼び、「問題生徒を『腐ったミカン』のように排除すべきではない」とする教育論が優勢だった。しかし近年は体罰が社会問題化し、いわゆるモンスターペアレントなど保護者対応もより難しくなった結果、教諭による生徒への抑止が利かなくなっている事実がある。

 中2の息子がいる同県内の50代男性高校教諭は「暴力を目撃した他の生徒のショックは大きいし、自分の子が被害に遭わないか心配。警察の介入は仕方ない」としつつ、教諭の立場から「大人に暴力をふるうのはそれまでの不信感や不満が積み重なった結果。日ごろから生徒とコミュニケーションがとれる関係を作るべきだ」と話す。

 「夜回り先生」で知られる水谷修・花園大客員教授は「もう学校だけでは対応できなくなっている。教諭にゆとりはなく、礼儀などを含む全ての指導を求めるのは無理がある。子供を育てるのは社会全体の責任。学校が警察を含む各機関と連携しながら子供たちを良い方向に導こうとするのは、間違いではない」と理解を示す。

 一方、教育評論家・尾木直樹さんは「生徒の評価権という絶対的権限を持つ教諭が、さらに警察権力を使うのは安易ではないか。学校の自殺行為でとんでもない話だ。背景には教諭の力量不足があり、他生徒への『見せしめ』の意味もあるのだろう。心の琴線に触れるような指導をせずに、生徒が更生するとは思えない」と厳しく批判している。

<今年度の中学生逮捕事案>

●発生場所・容疑者

(1)発生日(2)逮捕容疑(3)被害教諭(4)容疑の概要

●草加市・3年男子2人

(1)4月15日(2)暴行(3)50代男性

(4)胸ぐらをつかみ壁に押しつけるなど

●寄居町・3年男子

(1)4月23日(2)傷害(3)30代男性

(4)頭突きや腹蹴りで1週間のけがをさせる

●さいたま市・3年男子

(1)5月7日(2)暴行(傷害で送致)(3)30代男性

(4)胸の殴打や足蹴りで打撲の軽傷を負わせる

●越谷市・3年男子

(1)5月12日(2)暴行(3)20代男性(4)胸ぐらをつかむ

●比企郡・男子

(1)6月16日(2)暴行(3)20代男性(4)胸ぐらをつかむ