蜜月関係の日産、三菱自に“不協和音”…軽生産で波風

20140809-00000503-biz_san-000-2-view好調な軽自動車をめぐって蜜月関係にある日産自動車と三菱自動車に不協和音が生じている。共同開発した軽の全量を三菱自の工場で生産し、それぞれで販売する手法を用いて約1年が経過したが、日産が軽を自社生産する意欲を突如、あらわにしたからだ。低迷する国内の生産台数確保に向け、軽を切り札にしたい日産の思惑が透けてみえるが、三菱自側も好調な国内生産の大部分を支える虎の子の軽を手放したくないのが本音。ただ、破談は双方にとってデメリットも多く、どこを妥協点とするかに注目が集まっている。

事の始まりは、6月末開催の株主総会で、両社首脳が株主からの質問を受ける形で答えた発言にある。

日産のカルロス・ゴーン社長が6月24日、今後の国内生産について、「一部の軽については将来的に自社工場で生産する」と発言。一方、三菱自の益子修会長は翌日、「生産は三菱自動車の水島製作所で行うのが基本的な考え方」と述べ、共同開発の軽を日産で生産する可能性について否定するなど、歩調が合っていないことが露呈した。

両社は、国内専用車の軽の開発費を分担し、リスク低減を図ることを狙いに、平成23年に折半出資で「NMKV」を設立。エンジンや車台を新開発した新型軽を、日産が「デイズ」、三菱自が「eKワゴン」としてそれぞれ昨年6月に販売を開始した。日産は、これまでスズキからOEM(相手先ブランドによる生産(OEM)供給を受けて、軽の販売を手がけてきたが、軽の開発に携わったのは初めて。今年3月に販売を開始した第2弾も含め、生産は三菱自の水島製作所(岡山県倉敷市)が一手に引き受けてきた。

この結果、三菱自の国内生産台数は、昨年5月以降、13カ月連続で前年同月実績でプラス。25年度は前年度比31.6%増の63万台と、3年ぶりに60万台の水準まで戻るなど、軽の恩恵をフルに受ける形となった。

一方、軽を自社生産していない日産の今年度の国内生産台数は、前年度比8.9%減の91万1000台の見込み。年度ベースでは1960年代以来初めて100万台を下回る見通しで、経営方針である「国内生産100万台の維持」が未達になる可能性が出ている。

日産としては、現在ある共同開発の軽2車種をさらに増やし、一部を日産が引き受ければ、国内生産台数を増やせるとの考えがある。現在、生産する水島製作所の軽の生産の約3台に2台が日産車で、「国内生産台数の低迷に悩んでいるのに、三菱自の稼働率を支えている場合ではない」(日産関係者)と意見が社内でくすぶっていることも、自社生産を始めたい理由のひとつだ。

ただ、三菱自は、「国内生産60万台のレベルを維持したい」(相川哲郎社長)うえ、水島製作所の稼働率が車種の拡大とともに、落ち込むことを懸念。「デイズの中身はほとんどうちの技術」(三菱自社員)との思いも強い。ある幹部は、「NMKVで企画開発して、日産もうちも売る車は水島で作る。その枠に入らない車があれば、生産については文句をいう立場にない」と牽制(けんせい)する。

ただ、軽のノウハウに乏しい日産が排気量660ccの軽自動車のエンジンを自社開発してまで、軽を新たに作るのは、「膨大な開発費もかかるので現実的でない」(軽自動車大手)。

対立が深まり、合弁解消に至る最悪の事態は両社とも避けたいところ。三菱自の幹部は、「NMKVで企画し、日産だけで売る車を、日産の工場で作るならば…」と語り、妥協点を見いだす動きも出始めた。

現在、両社はNMKVの第3弾を電気自動車(EV)軽とする方向で開発を進めているが、果たして、生産はどう手がけるのか。ライバルの軽自動車メーカーも動向を注視している。