渋谷駅“最高難度”の大改造 8事業並行、連携と工程管理が鍵

渋谷駅の大改造が始まった。現在は解体や準備工事の段階だが、2、3年後にはタワークレーンが林立する。1日に200万人以上の乗降客が利用する駅の機能を維持しながら安全を確保し、地下から超高層ビルまで立体的に整備するという、数ある都内の再開発でも“最高難度”のプロジェクトだ。いかに2020年の東京五輪に間に合わせるか。多くの事業主体や建設会社の緊密な連携と、緻密な工程管理が成否の鍵を握る。

「工事のスケジュール調整は、各街区の建設会社が決まって工事計画が出てから具体的に始める」

 プロジェクト全体の調整を担う国土交通省関東地方整備局東京国道事務所(所長・西尾崇氏)の担当者はそう語った。入り組んだ各街区の計画が相互にそれぞれの工程に大きく影響するからだ。

 東急電鉄が2002年度から着手していた東横線地下化工事が昨年3月にようやく完了し、東京メトロ副都心線との直通運転が始まったが、渋谷駅の大改造はこれからが本番だ。周辺ではさらに、8事業が計画されている。

 ◆五輪へ前倒し注目

 主な事業者は東急電鉄、JR東日本、東京メトロ、東急不動産、UR都市機構で、これに地元地権者らによる再開発事業組合も加わる。このため昨年9月に東京国道事務所長を座長とする「渋谷駅中心地区工事・工程協議会」が発足。国交省を中心にスケジュール調整する体制を整えた。

 「渋谷駅の改造に合わせて懸案となっている駅南側の国道246号線の拡幅を計画しているが、着工はJR渋谷駅の埼京線ホームを移設した後になる」と、各工事は複雑に関係する。超高層ビルなどを計画する「渋谷駅街区」では、現在、旧東急百貨店東横店などの解体工事が進む一方で、駅の脇を流れる渋谷川の移設と地下貯留槽を整備する工事が進んでいる。同街区内に建設する渋谷で最も高いビルとなる予定の「東棟」着工はその後になる。

 それぞれの計画の完成時期は東京五輪開催が決定する前に公表されているものもあるが、変更の可能性もないとは限らない。埼京線ホームなどを改良する「JR渋谷駅改良工事」は、4月に15年度に着工することが公表されたが、完成時期はまだ決まっていない。

 ただし、東急東横線渋谷駅跡地開発などを実施する「渋谷駅南街区」が18年に開業する予定。南街区とJR線路をまたぐ形で接する「渋谷駅桜丘口地区」も東京五輪前には完成する計画で、この2街区とJR渋谷駅を直結するために設置される新しい南口改札口が利用できないと乗降客に不便を強いるので調整が必要とみられる。地下鉄銀座線渋谷駅の移設(21年度完成予定)も同様だ。今後、具体的なスケジュール調整で2020年までにどれだけ工事を前倒しできるか注目される。

 ◆情報発信も課題

 「渋谷駅の改造計画はすでに公表されているが、どう変わるかを具体的にイメージできている利用者はまだ少ないはず。工事期間中の来街者の誘導を含めて情報をどう発信していくかが重要だ」。渋谷区都市整備部渋谷駅周辺整備課の奥野和宏課長は、工程調整とともに情報発信も課題にあげる。

 もともと渋谷駅は複雑な構造で、初めて訪れた観光客などには分かりにくい。さらに工事期間中は迂回(うかい)や遠回り、仮設通路の利用を余儀なくされる。その間に万一災害が発生した場合でも安全に避難できるように、事前の情報発信や案内板などの設置が重要というわけだ。

 昨年5月に発足した渋谷駅前エリアマネジメント協議会が、情報発信などソフト面の役割を担う。東急電鉄、東急不動産、UR都市機構の3社が事務局となり、今年度から情報サイトの開設や仮設通路の装飾などにぎわいの演出を行う「SHIBUYA+FUN PROJECT」に着手した。情報サイトには、渋谷駅周辺の最新状況が分かる地図などを掲載している。

 渋谷駅街区土地区画整理事業でも情報サイト「SHIBUYA FUTURE」を開設しており、工事の月間予定工程表が掲載され、工事の進行状況が分かる写真も掲載している。

 1日200万人以上の乗降客に見守られながら、これだけの巨大建設プロジェクトが進行していくのはほとんど前例がない。工事期間中は仮設塀で囲って現場が見えないようにしているが、渋谷駅埼京線の通路窓から工事の様子を熱心に眺めている人をしばしば見かける。

 全体が完成するのは、東京五輪をまたいで10年以上先となり、それまで工事が続く。駅利用者に不便をかける建設工事を、新たな“コンテンツ”として積極的に活用して情報発信し、渋谷のファンを増やすという逆転の発想も必要かもしれない。