相次ぐ「コピー建築」に疑問の声、中国

エイブラハム・リンカーン(Abraham Lincoln)ら米国の歴代大統領4人の顔が彫られた米サウスダコタ(South Dakota)州のラシュモア山(Mount Rushmore)や仏パリ(Paris)のエッフェル塔(Eiffel Tower)、さらにはオーストリアにある村を丸ごと再現した施設――。ジャージからシャンパンまで、欧米のさまざまな商品の海賊版を次々と生産することで有名な中国で、世界的に有名な建造物をまねる例が相次いでいる。

外国人には奇妙な印象を与えるこうした「コピー建築」は、この国の大多数の人々にとってはおかしなことではない。

 中国南西部の大都市、重慶(Chongqing)市にある、ミケランジェロ(Michelangelo)のダビデ(David)像やオーギュスト・ロダン(Auguste Rodin)の「考える人(Thinker)」、4人の米大統領の巨大な頭像などが並ぶ公園で出会ったフー(Fu)さん(32)は「僕は良いと思う。行ったことがないところを見物できるんだから」と話す。

 重慶市内ではこのほかにも、現在建設が進められている、曲線を多用した白い外観が印象的なビルが、英国人建築家のザハ・ハディド(Zaha Hadid)氏が設計した北京(Beijing)のビルに酷似しているとして波紋を広げている。

 公園を歩いていた元裁判官の女性は、模倣は「中国人の習慣」であり「良いことだと思うわ。人は他人の経験から学ぶものよ」と話した。

 もっとも、ハディド氏による北京でのプロジェクトの責任者はそれほどポジティブではなく、重慶の開発業者を「海賊」呼ばわりしていると報じられている。この開発業者はAFPの取材に対して、北京のプロジェクトを模倣したことを否定し、さらにこの問題は北京の業者との間ですでに合意に達していると話した。これについて北京の業者はコメントを拒否した。

■「コピーは実践的な解決法」

 米ニューヨーク(New York)を拠点に活動し、「Original Copies: Architectural Mimicry in Contemporary China(オリジナルコピー:現代中国の模倣建築)」の著書があるビアンカ・ボスカー(Bianca Bosker)氏は、近年不動産ブームに沸く中国では、それと並行して「模倣文化」も流行しており、とりわけ自らの威光と成功を象徴するような建築が人気を集めているという。

 中国の模倣文化を代表する建築物としては、広東(Guangdong)省にあるオーストリア・アルプス山麓の世界遺産の村ハルシュタット(Hallstatt)を再現した施設や、杭州(Hangzhou)に建設された仏有名建築物のエッフェル塔やベルサイユ(Versailles)の噴水、河北(Hebei)省にあるスフィンクス(Sphinx)の模像、上海(Shanghai)郊外に建設された英国風のニュータウン、泰晤士小鎮(テムズ・タウン、Thames Town)などが挙げられる。

 コピー建築物はあざけりの対象となっているものの、ボスカー氏によれば、巨大なスケールで威信を表現する安易な手段となっているという。

 ボスカー氏はAFPに対し、「米国では、まねをする人間は創造性のない泥棒と見なされる一方、中国では、模倣することは有能さの一つの印で、実践的な問題解決の手段とも考えられている」と指摘。「開発業者は自らの事業をブランド化し、不動産の購入者は自分の暮らしぶりや経済的成功を見せびらかしたいと思っている。その最も安易な手段が、貴族的で『洗練』されたようなライフスタイルを象徴する建築物を模倣することだ」と述べ、人気を集めているモデルとして、ベルサイユやベネチア(Venice)、ホワイトハウス(White House)を挙げた。

 このような考え方が、イタリアのハンドバッグや、スイスの時計、フランスのワイン、ハリウッド(Hollywood)映画の海賊版、iPhone(アイフォーン)、さらには南西部の大都市、昆明(Kunming)に出現した偽の「アップルストア(Apple Store)」など、さまざまなコピー商品の大生産地に中国を押し上げた。

 ニューヨークのミニチュア、ベネチアのような運河、リオデジャネイロ(Rio de Janeiro)のキリスト像(Christ the Redeemer)のレプリカを備えた重慶の娯楽施設にいた若い男性は、本物を味わう余裕がない中国人は偽物で楽しんでいる、と話した。「他者の創造性を尊重するという観点からみると良いことではない。でも中国は現在発展の途上にあり、しばらくの間利用させてもらう。中国の経済が十分に発展した時には、もうコピー商品への需要はなくなっているだろう」

■「外国のものは何でも良い」? 

 だが、悠久の歴史を誇り、世界的な影響力を取り戻しつつある中国にとって、模造品があふれた現状は誇りを傷つけるのではないかという声も上がっている。

 国営の新華社(Xinhua)通信は今年3月、「不気味なコピー建築がはびこる風景」に警鐘を鳴らす記事の中で、中国人民大学(Renmin University)の陳雨露(Chen Yulu)学長が中国の学生たちに、「欧州の建築を模倣するのは慎んで、自国の文化をもり立てるように一生懸命勉強しなさい」と述べたと報じた。

 ボスカー氏は、国際的地位と経済力が向上するにつれ、中国は自らの内部から着想を得ようとするだろうと指摘し、すでに「自分たちが培ってきた本来の流儀に対する新たな自信と関心が出てきているようだ」と述べた。

 ラシュモア山のレプリカが展示されている公園で出会った20代の男性、マオ(Mao)さんは、過去に中国が支配的だったころ、周辺国は中国の文化を模倣したが、再び中国が主導権を握ったならば、また同じような状態になるだろうと主張し、「何か良いものがあれば模倣する。これは中国だけではなく、どこの国や社会でもやっていることだ」と指摘した。

 だが、友達と一緒に歩いていた27歳の女性フアン(Huang)さんは、自国の遺産をもっと活用していくべきだと主張し、「中国人は、外国のものは何でも良いもので、英語で書かれたものは、自分たちが読めるかどうか関係なしに良いとみなしてしまうようだ。中国は他国より劣っているわけではないのに、誰も中国の過去に関心を払おうとしない」と話した。