レズ、ゲイ…LGBTに関心高まる 日本人の5%、市場規模5.7兆円

同性愛者など性的少数者を示すLGBT(レズ、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)に向けたビジネスの可能性に関心が高まってきた。電通総研の調査では日本人の5%が該当、市場規模は約5兆7000億円にのぼる。より巨大な市場の広がる北米では高学歴・高所得者層も多く、観光や金融分野での取り組みが加速。LGBTの国際的な祭典「ワールド・プライド」が6月に開かれるカナダのトロントから、日本の将来像を探った。

 トロントの中心部には、LGBTの市内最大コミュニティー「チャーチ・ストリート」がある。最寄りの地下鉄ウェルズリー駅にはゲイとレズビアンのカップルの生活相談に関するポスターが貼られ、街にはシンボルのレインボー旗がはためく。専門のレストランや土産物店、シアターやコミュニティーセンターなど関連施設がひしめく。ゲイカップルがごく自然に手をつないで歩く姿も多い。

 2000年以降、数年おきに各国で開催されてきたワールド・プライドは今年、この地域で行われる。カナダの大手銀行、トロント・ドミニオン銀行(TD)とモントリオール銀行(BMO)が協賛する。TDは支援の理由を「社員のダイバーシティー(多様性)を保証するため」(広報)と説明。ただ実際は「高所得者層が多いLGBTから新規顧客を獲得する狙い」と市内にあるレズビアン&ゲイ資料館の担当者は解説する。

 LGBTは子供を持たない高学歴・高所得の共働き世帯が総じて多い。英フィナンシャル・タイムズは最近、経営層に占めるLGBTの特集を組んだ。最も有名なのは米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)でゲイとされている。

 また同性婚が法的に認められているカナダや米国の一部の州では養子を引き取るカップルもあり「不動産や金融、教育、観光など、総じて一般家庭より高い消費が期待されている」と資料館の担当者は解説する。

 トロントの専門旅行社、トラベル・ゲイ・カナダの推計では、北米のLGBTは人口の6〜8%を占め、市場規模は7500億カナダドル(約70兆円)、うち観光が700億カナダドル。今年はワールド・プライドの関連ツアーに世界中から観光客が集まるとみられ、同社ではナイアガラの滝などをセットにしたパッケージツアーを出している。「潜在的な市場は大きくさらなる成長が期待できる」という。

 日本でも、訪日外国人客数2000万人目標の達成に向け、観光でLGBT対応への機運が高まりつつある。日本政府観光局(JNTO)は英語サイトで東京や京都の対応可能なホテルなどを紹介している。

 特に準備を急ぐのが京都の観光施設だ。国内市場が頭打ちの中、外国人に頼らざるを得ない事情もあるが、もともと旅慣れた外国人知識層の個人旅行が多く円安が増加に拍車をかけた。ホテルグランヴィア京都では外国人観光客中、LGBTの比率が現在は1割を占めるまで拡大。担当の池内志帆さんは「同性カップルでも自然な接客ができるよう、従業員に徹底している」と話す。

 海外のゲイカップルの訪日観光を案内するアウトアジアトラベル(東京)によると定年退職者や中年の医師、弁護士が多く「国内消費額は50万〜100万円」と高額だ。ホテルグランヴィア京都は京都市内の臨済宗の寺院、春光院と組み、LGBTの外国人向け挙式プランの取り扱いを4月から始めた。日本では同性婚が認められていないため、あくまでセレモニーだが挙式費用と送迎、貸衣装、ホテルの宿泊3泊込みで2人77万円のパッケージに、海外から多くの問い合わせがあるという。

 春光院では4年前、海外からの問い合わせをきっかけにLGBT挙式の対応を開始、すでに数件の実績がある。副住職の川上全龍さんは「仏教の経典を調べたところ、同性婚を禁じた記述はなかった」と話す。4月末から5月初めのゴールデンウイーク期間中、東京ではLGBTの支援イベント「東京レインボーウィーク2014」が開かれた。協賛は米IBMやギャップ、ゴールドマン・サックスといった外資系企業が中心。その中で一部イベントを野村ホールディングスが支援、数少ない大手日本企業の参加となった。

 経営統合した旧リーマン・ブラザーズの流れを組むCSR(企業の社会的活動)の一環。担当者は「社員だけでなく、お客さまや取引先にもLGBTが存在する確率は相当数ある」と、将来的にビジネスの展開に役立てる可能性を探っている。ただ多くの日本企業はLGBT支援を打ち出すことに慎重だ。期間中、米国やスウェーデンの在日大使館がブースを出したが、カナダは参加を見送った。理由を広報担当者は「同性婚が認められていない日本での市場の拡大には限界があり、時期尚早と判断した」と打ち明ける。

 日本でも同性婚などの法整備が確立すれば、大きな市場が広がる可能性がある。だがそうした動きは非常に弱い。元電通総研の研究主席で消費生活評論家の四元正弘さんは「日本のLGBT層はまだニッチ(隙間)市場。まずは偏見を持たずにどんな人たちかを知ることが大事で、その先にビジネスの兆しを見いだせるはず」と話している。