「大学詣で」や雇用形態変更も…企業の学生争奪

景気回復を受けて大学生の就職率が94・4%と3年連続で改善し、「売り手市場」になりつつある就職戦線。

 建設や流通、外食業界などでは、新規採用の目標数に満たなかった企業も多い。来年3月卒では学生の“争奪戦”がさらに厳しさを増すと見られ、企業側は大学の説明会に参加したり、研究室に足しげく通ったりするなど、対策を迫られている。

 「3社から内定をもらったが、丁寧に相談に乗ってくれた会社に決めた。新人教育が充実していて、やる気が出る」。今春、東京都内の女子大を卒業し、住宅メーカー「ポラス」(埼玉県越谷市)に就職した椎名美結さん(23)は意欲を燃やす。

 同社グループには今春、大卒約100人が入社したが、採用目標人数を約2割下回った。そのため、人材育成を強化し、学生にアピールしようと、これまで担当者任せだった新人教育のマニュアルを作成。入社後の研修も充実させた。

 同社の石田茂人事部長は「2020年の東京五輪を前に、建設業界はどこも人が足りない」と語る。来年3月卒の採用は「先行逃げ切り」を狙い、前年より約2週間早い内々定をすでに出しているが、大手企業に流れてしまうケースもあり、楽観はできないという。

建築土木系の学科がある大学には、大手ゼネコンから中小建設会社まで、多くの企業が足を運んでいる。

 日大工学部(福島県郡山市)が昨年2月、今春卒の学生向けに開いた就職セミナーには、前年より50社以上多い556社が参加。ロビーまで企業ブースがあふれた。今年2月の来春卒向けセミナーでは、さらに増えて738社に。持ち込まれる求人も、3年前に比べて3割増えた。

 就職指導の担当教授は「訪ねて来る企業の数も、回数も増えた」と驚く。

 リクルートホールディングスが今年2〜3月に調査した来春卒の求人倍率は1・61倍で、前年の1・28倍から急上昇した。全業種で、求人数が2〜3割増えているといい、岡崎仁美・リクルートキャリア就職みらい研究所長は「再来年3月卒からは、経団連のルール変更で採用時期が繰り下げられる。中小企業には一層厳しくなるだろう」と分析する。

 流通、サービス業なども人手不足感が強く、雇用形態の見直しを検討するところも出ている。

 牛丼チェーン「すき家」を展開する「ゼンショーホールディングス」(東京都港区)は、今春の新入社員数が目標を約100人下回った。今後は今年6月に全国7地域に分社を設立し、地域ニーズに合った雇用を研究、募集していくという。

 4月から基本給を1万円アップした「王将フードサービス」(京都市)も、新入社員が目標より2割足りなかった。是枝秀紀人事部長は「給料さえ良ければ人が集まるという時代ではなくなった。調理に限定した正社員枠を設けるなど、雇用を多様化しないと、人材が集まらない」と話している。