ニッセン、フランフランがセブンを選んだワケ

セブン&アイ・ホールディングス <3382> が総力を挙げて取り組む「オムニチャネル戦略」。ネット通販や実店舗などあらゆる販路を組み合わせ、いつでもどこでも欲しいものが買えるようにするものだ。昨年12月には、戦略の迅速な実現を目指し、通販大手のニッセンホールディングス <8248> (HD)など計4社の買収や出資を相次いで発表した。 ただし、これまでセブン側のメリットは語られても、買収・出資された側の目的はあまり注目されてこなかった。セブンという“傘”の下に入るメリットは何だったのか。

■ 1日に1800万人がレジを通る

 「いろいろな提携先を模索したが、セブン以上の企業はなかった」。セブングループが133億円で約51%の株を取得し子会社化したニッセンHDの脇田珠樹・経営企画本部長はそう打ち明ける。同社は数年にわたってパートナーを探しており、専門店や商社などが候補に挙がってきた。

 しかし、圧倒的な顧客数を誇るセブンに勝る相手はいなかった。「セブングループでは1日に1800万人もの人がレジを通る。そのほんの一部がニッセンに振り向いてくれるだけで、大きなメリットになる」(同)。

 ニッセンの会員数は、カタログとネットの双方含めて3160万人(13年末時点)。だが、実際に注文をした顧客数は1年間でのべ460万人ほどしかいなかった。利用者は減り続けており、2013年度は33億円の営業赤字(12年度は6億円の営業黒字)に転落した。今後はカタログ発行回数の増加などで、15年度には黒字転換を見込んでいる。

消費行動が目まぐるしく変わる現代において、「カタログ通販というビジネスモデルが年々厳しくなっている」という危機感はニッセンにもあった。

 ただ、通販サイトを改善するにしても、物流システムを再構築するにしても、ある程度の資金は必要だ。単独で負担するよりは、誰かと協業したほうがメリットは大きい。

 今では、ニッセンのカタログがセブングループ1万7000店舗の大半に置かれるようになった。それまでの4万あった設置数から一気に3〜4割増えたことになる。今後はセブン-イレブンと共同購入キャンペーンを打ったり、セブンのグループ企業である赤ちゃん本舗の商品を双方の通販サイトで販売するなど、さまざまな可能性を検討しているという。オムニチャネルが実現すれば、ニッセン商品のセブン-イレブン店頭受取なども可能になる。

■ 100を超える協業案

 買収からまだ3カ月ほどしか経っていないが、こうした具体的な取り組みについて、セブン-イレブン、イトーヨーカ堂、そごう・西武、ロフトなど、セブングループ各社とニッセンの個別協議が連日重ねられている。その項目数はすでに100を超える。

 あらゆる業態を持ち150もの企業が属するセブン&アイグループと組むということは、さまざまな課題に関して適した企業とピンポイントで協業できるようになることでもある。

 「ニッセンを抜本的に変えるには、一部分だけではなく、すべてを短期間で磨き上げなければならない。これだけたくさんの企業と提携を一気にできる相手はそういない」

雑貨店「フランフラン」を運営するバルスも、約50億円(出資比率約49%)でセブン&アイにグループ化された。同社の?島郁夫社長も「提携先はほかにも探したが、一つの課題しか解決できないところばかりだった。一方でセブンはネット、物流、顧客、店舗網と総合的にさまざまなことに取り組める可能性があると感じた」と語る。

 ?島社長は、セブンと手を組んだ一番の理由として「販売力」を挙げた。「セブン-イレブン1店舗当たりの1日の平均売上高は、ライバル社と比べて2割以上高い。その差が何なのか知りたかった」。

 実際、バルスにはすでに2人のキーマンがセブンからやってきた。セブン-イレブンで担当地区の店舗運営を統括するゾーンマネジャーを務めた人物で、現在はバルスの販売本部長として店舗運営などを取り仕切っている。

 セブン-イレブンの店舗統率力は業界では有名。?島社長も「現場へサービスを理解させる力は、われわれ以上」と感嘆する。末端の販売員まで商品のセールスポイントをしっかり浸透させるなど、店舗運営の基本を再徹底している。

 バルスは今後、従来の大型店舗と比べ店舗面積を2割ほどに抑えた小型店を、最大で約200店出す方針だ。4月には神奈川県内に1店目がオープン。店舗数が順調に増えていけば、セブンの持つ店舗を統率するノウハウがより生きる。

■ 人事交流への高い期待

 人事に関してはニッセンでも同様だ。セブン-イレブン・ジャパンの執行役員でもある永松文彦氏が3月にニッセンHDの副社長に就いた。永松氏はゾーンマネジャーとしての経験に加え、人事畑が長く、グループ各社とのパイプも持っている。

ニッセンはこれまで、商品の企画や販売予測などを年5回のカタログ発行に合わせて実施してきた。しかし、それが動きの早い消費ニーズをとらえきれない一因となっていた。その反省から、現在は永松氏を中心に、会議の頻度や項目などの見直しを進めている。

 これらの人事交流は、いずれも買収・出資された側が要望したものだ。実現には至っていないが、セブン-イレブンのノウハウを学ぼうと人材派遣も含めた出資の受け入れを検討している企業は少なくない。

■ セブン側でもメリット発現

 セブンにとっても提携のメリットが発現しようとしている。オムニチャネル戦略を進める過程で、傘下企業が持つコールセンターの統廃合を進めているが、その取りまとめはグループの中でいちばんノウハウのあるニッセンが担当している。

 また、デザイン性の高いオリジナル商品で若い世代に人気があるバルスは、業績の低迷が続くイトーヨーカ堂に対し、商品コンセプトや面積配分など、具体的な売り場づくりの提案を始めた。4月28日からは、セブンの通販サイト上でバルスの雑貨が取り扱われる。

 今回の買収・出資は、セブンにとってはオムニチャネルをより迅速に進めるために弱い部分を補完する、という目的があった。一方、グループ化される側にとっても、日本有数の流通コングロマリットに入るメリットは大きい。

 「セブンの力を借りたら、小さな私どもが大化けするような新しいビジネス展開ができるかもしれない」――。ニッセンの佐村信哉社長は、セブンによる子会社化の発表会見でこう語った。今後もセブン&アイグループの拡大は続きそうだ。