日本郵政 上場議論が始動

政府は14日、100%の株式を保有する日本郵政グループの持ち株会社、日本郵政の株式上場に向けた本格的な議論をスタートした。日本郵政は早ければ来春の上場を目指しており、株式の売り出し方法など具体的な手続きの検討を進める。

財務省の財政制度等審議会国有財産分科会が同日開かれ、有識者らが議論に着手。分科会は6月上旬に答申をまとめ、政府と日本郵政などがその後、具体的な上場スケジュールなどを決める。

 日本郵政の株式総額は12.4兆円(簿価ベース)とされ、政府は最大3分の2まで売却できる。政府は売却益のうち約4兆円を東日本大震災の復興財源に充てる方針だ。また株式売却は巨額に上るため、株式市場への影響を最小限にとどめる方策なども検討し、売却は数回に分けて実施される見通しだ。

 菅義偉官房長官は同日の記者会見で郵政民営化について「着実な進展がみられることは好ましい。できるだけ早く株式を売却し、売却収入益ができるだけ大きくなることを期待している」と述べた。

 郵政民営化から7年目でようやく本格的な上場の議論が始まったが、グループの課題は山積している。傘下の3事業会社はいずれも中長期的な成長が描けていない。日本郵便はインターネットなどの普及で郵便取扱量の減少傾向が続くが、打開策は見いだせず、収益力は乏しいままだ。しかも今年度から3年間で約5500億円を投じ、全国の老朽化した郵便局の改修に着手する計画で、2015年3月期は267億円の最終(当期)赤字に転落する見通しだ。

 グループの収益の9割超を稼いでいるのがゆうちょ銀行(14年3月期の最終利益は3200億円の見通し)とかんぽ保険生命(同560億円)の金融2社。2社の収益力向上が全体の成長を左右するが、事業拡大には壁がある。新規事業の進出は今のところ、今年4月に販売を始めたかんぽ生命の学資保険の新商品だけ。ゆうちょ銀が申請している住宅ローンなど他の商品については国が認可するめどはたっていない。貸し倒れなどに備えるノウハウがないことや、金融業界から「国有企業による民業圧迫になる」との批判が根強いためだ。

 1000万円の貯金限度額、1300万円の保険加入限度額の引き上げについても、「日本郵政への政府出資が半分以下にならなければ困難」と見られている。

 また日本郵政が上場しても、金融2社の今後の扱いが不透明だ。改正郵政民営化法は2社についても「できる限り早期に株式を処分する」としているが、具体的な期限は決まっていない。しかも金融2社が上場すれば、日本郵政は不採算の日本郵便しか抱えないことになり、日本郵政株の市場評価が下がるというジレンマも生じる。

日本郵政グループ

国営の郵便、郵便貯金、簡易生命保険の3事業の民営化を目指す中で生まれた企業グループ。2007年10月の郵政民営化法施行で、前身の日本郵政公社が分社化し、持ち株会社の日本郵政と、傘下の子会社である郵便事業会社、郵便局会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の5社体制で発足した。現行の企業体制は12年10月の改正郵政民営化法施行でスタート。郵便事業会社と郵便局会社が合併して「日本郵便」となり、持ち株会社の傘下に、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の3事業会社がぶら下がる。13年3月期の売上高に相当する連結経常収益は15兆8491億円、最終(当期)利益は5627億円。従業員数は持ち株会社と3事業会社で計約22万人。