立ち食いステーキが人気 年内に都内10店、NYにも出店へ

ステーキといえば、かつては「高価な食事」の代名詞。その本格ステーキを、銀座というおしゃれな街で、なんと「立ち食い」するーー。この意外性のあるコンセプトで2013年12月にオープンしたお店が大ヒットしている。その名も「いきなり!ステーキ」。連日、お客が行列をなす大盛況が続き、4月1日には銀座の2店舗に続き、東京スカイツリーに近い墨田区に3店目がオープンしたばかり。運営会社では、年内に東京都内に10店舗、今夏には、ニューヨークにも進出を予定している。

■ステーキを半額で提供 立ち食いスタイルにたどり着く

 立ち食いステーキの「いきなり!ステーキ」は、東証マザーズに上場するペッパーフードサービス(一瀬邦夫社長、本社・東京都墨田区)が、新しい業態として立ち上げた。同社は、一瀬社長がコックとして1970年に開店した洋食店が前身。1987年からステーキ専門店の展開を始め、1994年、特殊な電磁調理器によって熟練のコックでなくても素早く美味しいステーキを提供できる「ペッパーランチ」業態をスタート。630円〜という通常のステーキ店のほぼ半額を売りに他店舗展開し、急成長を果たした会社だ。

 同社では、ペッパーランチの展開の一方、炭焼きの本格ステーキ店も経営しており、「肉1g当たり10円」で注文カットできるスタイルが人気を集めていた。ある日、一瀬社長は「これを半額で提供できないか?」と発案。検討を重ねた結果、行きついた結論が「立ち食い」スタイルだったという。

■1日の客数は約500人 1日の売上は約100万円

 立ち食いにすることで、少ない面積で席を増やし、お客の回転も早くする。さらにメニューも「ステーキ」「ライス」「サラダ」程度に絞り込むことで、素早い提供と、コストの削減を実現。こうして「1g当たり5円」という価格で本格ステーキを提供できるめどが立った。肉は米国産のほか、豪州産も使用する。

銀座の店は広さ20坪(約65平方メートル)程度で30席を確保。従業員はわずか5、6人。一日平均の客数は約500人。1人当たりの平均単価は2000円ほどだが、一日の売上は100万円となる計算だ。

■滞在時間の短さ 早い回転で効率を高める

 売上が当初予想を1、2割上回ったことはさながら、予想以上だったのが、お客の滞在時間の短さだという。開店前は、1人1時間を見込んでいたが、ふたを開けると30分ほどしか滞在せず、早い回転で店の効率を高めている。銀座といえば、日本でもトップクラスで賃料がのしかかる。同店も賃料は月150万円ほどだが、それを補って余りある売上と少ない人件費で、利益を伸ばしているようだ。

 4月上旬の午前11時過ぎ、銀座4丁目店を訪れた。開店直後というのに、すでに約20人が並んでいたが、30分ほどで入店できた。店内は思ったよりも狭い印象で、牛丼店を想起させる。それでも、両手でナイフとフォークを振るうことを想定してか、一人分のテーブルのスペースは広く、大柄の男性でも隣を気にせずに食べられそうだ。注文した300gのリブロースステーキがジュージューと音を立てて運ばれてきた。iPad miniに近い大きさで、迫力十分。塩とコショウをかけて口に運ぶと、肉の旨味に夢中になり、立っていることも忘れて10分ほどであっという間に平らげてしまった。客の回転が早いわけだ。

 交際中の彼女と来店した栃木県足利市の会社員、梅田忠昭さん(29)は「最初は立ち食いに少し抵抗はあったが、食べ始めたらそれほど気にならなかった。多少食べにくくはあったが、安いし味もボリュームも満足。また来たい」と笑顔をみせた。

■年内に都内10店 夏にはニューヨークへ出店

 ペッパーフードサービスの広報担当者は「コストを削減しつつ、質の維持には徹底してこだわりました。年内に都内に10店舗の出店が目標。夏にはニューヨークへの出店を目指して準備中です。来年以降は国内の主要都市への展開も検討しています」と鼻息が荒い。

この「立ち食いステーキ」は、外食の新たなスタイルとして消費者に定着していくのだろうか。文教大学国際観光学科の横川潤准教授(フードサービス・マーケティング論)は「数年前から立ち食いのフレンチやイタリアンが人気を集めており、高級料理を立ち食いするのも『あり』という認知の素地があって、ステーキもすんなり受け入れられたのだろう。ただ、立って食べることに必然性はない。今は話題性で人気を集めてはいるが、ブームはいずれ終わるだろう。これ自体が今後、大きなビジネスになるとは考えにくいが、ペッパーフードサービスにとっては、立ち食い店で得られる知見を、本業へのフィードバックに生かせるメリットはあるだろう」という見方だ。

 ゆっくり前菜を楽しんだ後、“真打ち”として終盤にいただくのが従来の高級ステーキの食べ方だったが、「ムダな前置きを省いて、いきなり本番」というのは、効率好きでせっかちな昨今の日本人にマッチしているのかもしれない。この新しいスタイルが消費者に果たして定着していくのか、注目が集まる。