チーズ値上げをもたらした国内外の構造問題

乳業メーカーが相次いで市販用チーズの値上げに動いている。雪印メグミルクは1月下旬出荷分から、明治と森永乳業、六甲バターも3月分から、内容量を減らすなどして実質値上げに踏み切った。各社一斉の値上げは2008年以来、6年ぶりだ。

 一斉値上げの主因は、国内外での原料高騰である。「特に影響が大きいのは輸入原料の価格上昇」(雪印広報)だという。今回の値上げ対象製品は輸入したナチュラルチーズを原料とするものが大半。12年末からの円安進行に加え、世界的に乳製品の需要が高まっていることが原料コストを押し上げた格好だ。

 伊藤忠商事の山中健盟・乳製品課長は「中国をはじめとしたアジア地域で、製パンや製菓用に全脂粉乳の需要が高まっている」と指摘する。チーズも全脂粉乳も、原料は生乳(搾ったままの乳)で、世界的に生乳が不足する事態になっている。

 さらに、乳製品の主要産地であるオセアニアでは「短期間で効率的に生産できる全脂粉乳の生産が優先され、完成まで時間を要する原料チーズの生産量が落ちている」(山中課長)ことも、原料の価格高騰に拍車をかけている。

 新興国では経済成長とともに、これまで高級品だった乳製品の購買者層が増加している。世界的な需給逼迫は、すぐには収まりそうにない。

実際、チーズが売上高の95%を占める六甲バターは、「今年1月からの輸入価格は、1年前と比べて20〜25%上がった。とても厳しい」(IR担当者)と語る。原料高の影響で14年12月期は前期比約15%の営業減益を見込んでいる。

■ 生乳取引額もアップ

 輸入原料に加えて、国産原料である生乳の価格もじわじわと上がっている。ホクレン農業協同組合連合会などによると、13年度のチーズ用生乳価格は前年比約2%(1キログラム当たり1円)上がった。直近では最後となる価格引き下げがあった09年度と比べると、6〜15%の上昇だ。

 これは、新興国で肉食化が進んだことなどに起因する飼料価格の上昇が影響している。農林水産省のまとめでは、生乳100キログラムを生産するのに必要な費用は6690円(12年度、労働費除く)。09年度と比べると5.5%増加している。このうち、費用の半分以上を占める飼料費は6.7%も伸びている。

 そもそも後継者不足による酪農家数の減少で、生乳生産量はここ数年、減少傾向にある。酪農や乳業の関係者で作る業界団体のJミルクは、13年度の生産量を前年度比1.9%減、14年度も0.5〜1.5%減と見積もる。生産体制を維持するためにも、メーカーは取引価格を上げざるをえない。

 「値上げはしたけれども、まだコスト上昇分の半分も転嫁できていない。今は次の策を練っている」(雪印広報)。4月の消費増税もあり、消費者は価格に一層敏感になっている。乳業メーカーにとっては厳しい状況がしばらく続きそうだ。