引責観測も飛び出すスターフライヤーの苦境

黒を基調とした内外装。スタイリッシュな革張りシートを配し、座席間隔も広めに取ることなどで、特徴を出してきたスターフライヤー <9206> 。北九州空港を拠点とする中堅エアラインが、正念場を迎えている。 「スターフライヤー社長退任へ、赤字見通しで経営刷新」

2月20日、ある全国紙の九州地方版の朝刊1面に、スターフライヤーが2013年度に大幅赤字へ転落する見通しとなった責任を取って、米原慎一社長が退任する意向を固めた、という内容の記事が踊った。

 この報道に対し、スターフライヤーは「当社の代表取締役の辞任に関する報道がありましたが、現時点で具体的な決定事実はございません」と、お決まりのコメントを発表。同社の広報担当者によると、2月20日夕方時点では「本当に何も決議されていない」という。

 ただ、米原社長は最近の記者会見で業績悪化の経営責任について言及しており、退任観測は根も葉もない話でもない。何より、こうした報道が飛び出すこと自体、スターフライヤーが抜き差しならない状況に追い込まれていることを象徴している。

■ 今年度は巨額赤字に転落

 同社は今年度、本業の儲けを示す営業損益が33億円の赤字に陥る見通しだ(前2012年度は310万円の黒字)。純損益も33億円の赤字を見込んでいる(前年度は2億8700万円の黒字)。深刻なのは、売上高が327億円と前年度の251億円から約3割も伸びるにもかかわらず、売上高の1割にも匹敵する巨額の赤字を強いられる点だ。

今年度、売り上げを伸ばした要因は、2013年春の発着枠拡大を受け、羽田空港発着の国内線を大幅に増便したことにある。スターフライヤーは羽田―福岡線を従来の1日5往復から10往復に倍増。羽田―関空線も同4往復から同5往復に増やした。

ところが羽田―福岡線は、スターフライヤーだけでなく、日本航空 <9201> (JAL)、全日本空輸(ANA)、スカイマーク <9204> などの競合にとってもドル箱路線。各社が一斉に羽田―福岡線の便数を増やしたことで、「供給過剰になってしまった」(大手航空会社関係者)。 2012年度は平均で7割以上をキープしていたスターフライヤーの羽田―福岡線の搭乗率は、2013年度上期(4〜9月)は63.2%まで低下。国内外全4路線の平均搭乗率も63.8%と低迷している。想定どおりに利用率を伸ばせず、増便にかかるコスト負担だけが重くのしかかってしまった。

 加えて打撃を与えたのは、急激に進行した円安ドル高だ。航空会社は機材や燃油をドル建てで調達しており、これが採算悪化に拍車をかけた。

 スターフライヤーは昨年11月に経営合理化計画を発表。不採算路線からの撤退や希望退職者の募集、委託契約や利用施設の削減などを進めて、2014年度以降の業績回復をもくろんでいる。

■ 削がれていく“強み”

 スターフライヤーが使用する機材はエアバスの「A320」型機。LCC(格安航空会社)であれば通常170〜180席を取る機体だが、スターフライヤーは144席(一部150席)として座席間隔にゆとりをもたせた。さらにオリジナルコーヒーを提供するなど、機内での快適性を売りとしてきた。また運賃設定では、スカイマークよりは高いが大手よりは安いという“すき間”を狙ってきた。

この戦略に立ちふさがったのが、JAL、スカイマーク、そしてLCCである。

 公的資金の注入により急回復をはたしたJALは、財務力を武器に主要路線で価格競争を仕掛けている。加えて、国内線の競争力を増すために、今年5月から国内線の主要機材全機の内装を順次刷新。全座席を本革仕様に変更するのに加え、座席間隔も広げる。スカイマークも、4月から全席を広めのシートにした新機材を羽田発着の主要路線で順次導入する。

 両社の戦略は、まさにスターフライヤーのお株を奪うもの。各社にとってドル箱である羽田―福岡線には、広めのシートを優先的に投入するとみられ、ソフトサービス面での競争激化は必至だ。

 就航から3年目を迎えたLCCの存在も、スターフライヤーにとって脅威。羽田発着ではないものの、成田発着のジェットスターは福岡路線を飛ばしており、運賃の安さを優先する顧客にとっては有力な選択肢の一つとなっている。

■ 財務は危険水域に迫る

スターフライヤーは、同社の筆頭株主であるANAホールディングス <9202> と一部路線でコードシェア(共同運航)するなど連携を深めることで、来年度以降の業績改善を目指している。ただし、快適性でも安さでも、かつてのような優位性は薄れている。 同社の自己資本は2013年12月末時点で26億円。自己資本比率は13.5%と、1年前の28.3%から急激に悪化している。財務面では、資本増強が必要になると言ってもいいほど、危険水域に迫っている。「ANAホールディングスOBを次期社長として招き入れるのではないか」という観測が出ていることの裏を返せば、ANAが救済するというシナリオもありうるかもしれない。