ソフトバンク、Tモバイル買収にかかる大きな疑問

スプリントを傘下に収めたソフトバンクにとって、TモバイルUSへの買収提案は次の一手として必然だったと言える。大きな疑問は、ソフトバンクがいかにしてその資金を賄うかだ。

 強気で攻める孫正義社長は米国最大手への躍進を目指しており、Tモバイル買収はその目標に近づく唯一の道だ。スプリントとTモバイルを合わせた総契約数は9800万件となる。これに対しAT&Tは1億0800万件、ベライゾンは1億0100万件だ。スプリントとTモバイルの幹部は9月以降、米当局は両社の統合を認めるべきだと公に訴えている。

 それにもかかわらず、ウォール・ストリート・ジャーナルが13日付でスプリントのTモバイル買収検討を報じた後の投資家の反応は否定的で、ソフトバンクの株価は16日の東京市場で3.2%安となった。

 投資家は、すでに恐ろしい水準にあるソフトバンクの負債がTモバイル買収で一段と膨らむことを懸念している。スプリント買収のため負債がさらに216億ドル(約2兆2200億円)増加したことを受け、スタンダード&プアーズ(S&P)とムーディーズは7月、ソフトバンクの信用格付けを投機的水準(ジャンク級)に引き下げた。ほかにもソフトバンクは今年、米携帯電話端末流通サービス会社のブライトスター、フィンランドの携帯端末向けゲーム会社スーパーセルの買収に計25億ドルを投じた。

 孫社長を支持する向きは、巨額の債務を利用して果敢に買収を進め、成功してきた実績があると主張する。だが9月末時点の負債はEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の4.7倍と高水準で、特にAT&Tの1.7倍、ベライゾンの0.9倍と比べると際立つ。ボーダフォンの日本事業を買収した2006年には、さらに高い6.1倍だった。

 スプリント買収発表後の株価からは、投資家が「疑わしきは罰せず」の原則を孫社長に当てはめようとしている様子がうかがえる。昨年10月、最初の買収提案が明らかになった日には1日で5%下落したものの、その後株価は4倍近くに達している。アベノミクスによる全般的な市況改善や、上場を準備する中国の電子商取引最大手、阿里巴巴集団(アリババグループ)に出資していることも株価の支えになった。

 負債がこれほどの高水準にあるなか、新株発行の見通しは投資家を神経質にさせている。CLSAのストラテジスト、ニコラス・スミス氏は、信用格付けや償還期限を迎える社債の規模などから判断し、ソフトバンクは日本の中で特に新株を発行する可能性が高い企業の1つだと指摘する。ただ、孫社長自身がソフトバンク株20%以上を保有しているため、株式希薄化をためらう可能性があるとも述べた。

 孫社長は今年、ソフトバンクをあらゆる面で世界一の企業にしたいと語った。その野望からは、ソフトバンク株の投資家が何を買っていることになるのかがわかる。それは債務をてこにした世界規模の買収マシンだ。投資家は買収が長期的に結実する限り、多額の借り入れも意に介さないようだ。