ネット通販王国・楽天市場の変調 セールス依存に限界 一強神話崩れるか?

20131216001029a2_1327_972183e7_8d621efc「スーパーセールは中止します。今回は、代わりに大感謝祭を行うことになりました」

11月15日、楽天の東京・品川本社。本来この日は出店者を集め、2週間後からのスーパーセールに向けた決起集会を開くはずだった。

スーパーセールとは、2012年3月から楽天が始めた時間限定の“お祭り”で、大幅値引き品がずらりと用意される。通常は100円につき楽天スーパーポイント1ポイントが付与され、1ポイント=1円として使えるが、セール期間中は数十倍のポイントが付くことも珍しくない。

楽天はこの2年で6回のスーパーセールを開催している。それ以前にもセールはあったが、スーパーセールはテレビCMや交通広告で宣伝も派手に行う。集客力は段違いだ。

今年は保有する球団・東北楽天ゴールデンイーグルスがパ・リーグ優勝および日本一となったそれぞれのタイミングで緊急セールも開催。通常のスーパーセールと楽天優勝セールが重なった今年9月の流通総額(商品取扱高)は前年同月比42%増の1426億円を記録した。

セールの開催ごとに押し上がる流通総額。しかし、11月3日から7日まで行われた楽天日本一セールは、楽天にとって予期せぬ事態をもたらした。

■後味の悪さ残った二重価格問題

「弁護士を通じてキャストホールディングスには内容証明を2回送ったが、誠意ある対応がない」。京都で宇治抹茶の菓子を販売する茶游堂の当主・林屋和成氏は語る。

茶游堂は日本一セールで10個入り1万2000円の抹茶シュークリームを「通常価格から77%引きの2600円」で販売し、インターネット上でバッシングを浴びた。景品表示法上は、過去8週間以内に4週間以上販売した実績がないと通常販売価格と打ち出せない。同店は日本一セールで初めてこの商品を出品したため、当然1万2000円で販売した実績はなく、77%引きというのは不当な二重価格表示だった。

実は、茶游堂は問題の商品を直接販売せず、キャストホールディングスという企業が運営する産直食卓・楽天市場店に販売を委託している。そのため、「こんな販売価格になっているとは知らなかった」(林屋氏)。茶游堂としては露出が増え、キャスト側は在庫を持つことなく手数料が稼げる仕組みはドロップシッピングと呼ばれ、業界では珍しくない。だが、「中にはいいかげんな値付けや悪質な商品もあった。ユーザーが見極めるのは困難」(ネット通販のコンサルティングを手掛けるランダーブルーの永江一石社長)。

楽天は三木谷浩史会長兼社長が開いた謝罪会見で17店舗が不当な価格表示を行っていることを認め、1カ月のサービス停止処分も発表した。ただ、くだんの茶游堂もキャスト社は処分を免れた。

処分対象となった17社は、いずれも従来から出品していた商品の通常価格をセール直前に吊り上げたケース。一方、シュークリームはまったくの新規出品商品のため対象にならないというのがその理由だ。

モール側の不正防止対策には限界があることも明らかになった二重価格問題。今回のスーパーセールが急きょ大感謝祭になったのは、自粛の一環だと受け止めた出店者は多い。出店ルールを説明した30分ビデオを見ないと出品ができない仕組みも導入されたという。

11月30日から始まった大感謝祭では、メーカー定価があるような商品を除き、価格表示は販売価格1本におおむね絞られた。6年前からスポーツ衣料品店を出店する社長は、「そもそも77%オフが無理な設定だった。うちでもサンプル商品か廃番商品でないと出品できなかった。是正されたのは歓迎」と話す。

一方で、楽天が優秀店舗として表彰する店舗を含め出店者たちの間には、「一発価格だと通常からどれくらい安くなったかわからず訴求力が落ちる」「ほかのサイトで相場を確かめているうちにかご落ち(購入カートに入れても購買ボタンが押されず削除となること)してしまう」という懸念が広がった。

会期中の流通総額は健闘したようだ。初日の11月30日に有効期限を迎える楽天スーパーポイントが大量に積み上がっており、これを使い切りたいユーザーが集中。「翌1日の深夜には、楽天が4時間限定でポイント3倍の実弾攻撃を実施。そこからの伸びはすさまじかった。前年割れにはさせない、という楽天の意志を感じた」(紳士衣料品を販売する都内の出店者)。

今の楽天にとって、定期的なセールは流通総額拡大に欠かせない戦術となっているが、出店者の間からは疲労感を訴える声も上がる。

楽天ここがおかしい 優良店舗も激白

「スーパーセールに50%引きの商品を3000万円分用意して」と言われてがっかり。最近はセールをやりすぎ。見掛け上の売上高を伸ばすため店子を苦しめている(衣料)

ヤフーの出店料がなくなる一方で、露出を増やすためには広告費が増えると覚悟している(雑貨)

広告出稿要請がきつい割に、費用対効果のフィードバックはない。担当者もころころ代わり、新卒だとか畑違いの業界担当が来たりとレベルが実に低い(スポーツ)

ポイントは出店者が自腹を切っているのに、失効しても店舗に戻ってこないのはおかしい(複数)

2000年以前から出店しているが、当時の仲間は1割程度しか残っていない印象。今4万店あるとして、延べ20万〜30万店の出店があり、そのほとんどが退店していったのでは(衣料)

※ショップ・オブ・ザ・イヤーや楽天市場EXPO賞の受賞経験がある優良店舗を中心にした出店者への取材を基に本誌作成

「1日100億円をやってみたい」

別の出店者は、スーパーセールを始めるに当たって、幹部がこう言うのを聞いた。「やってみたら100億円まで行った。そうしたら、『100億円を何度もやりたい』と。(スーパーセールとは別に開催する)お買い物駅伝などを含めれば毎月セールをしている感じだ」。

衣料品を販売するこの出店者は、「円安で仕入れコストが上がっているのに、楽天の営業マンは値引きしろ、ポイント付けろ、の一点張り。さすがにしらけてきた」と言う。

出店者の持ち出しによるポイント付与は、1ポイントにつき1円分値引きをすることにほかならない。ポイント10倍なら1割引と同じ。これで販売数が急増するか、ユーザーが追加で商品を買ってくれなければ収支は厳しい。

スーパーセールで極端に高い売り上げの山ができると、業務に支障を来すこともある。ある20代の男性は、今回の感謝祭期間中に果物飲料を注文したが、数日後に店舗から送られてきたメールにがっかりした。12月上旬だったはずの出荷予定が、「中旬以降に出荷予定日をお知らせします」とのこと。「この分ではいつ届くか……」(男性)。

■突如変わるルール増える出店者の負担

「楽天は胴元。何かシステムに変更があるたびに負担が増えるが、仕方ないとあきらめている」

出店者からよく聞かれるせりふだ。楽天が1997年にオープンした当時出店料は月額5万円で一律だったが、02年から売り上げに応じた従量課金制を導入した。購入者へのメールマガジン送付にも、途中から一定の縛りがかかるようになった。

時価総額もついに2兆円を突破した楽天。12月16日発売の週刊東洋経済では三木谷氏率いるネット通販王国の異変に迫る。