大人用おむつが、バカ売れするワケ

大人用紙おむつのマーケットが伸びている。業界最大手である、ユニ・チャームの大人用おむつの売上高は、前2013年3月期に600億円を突破。初めて子供用おむつと逆転した。ユニチャームによれば、国内市場全体をみても、10年に子供用1530億円:大人用1440億円だったおむつ市場が、12年には子供用1390億円:大人用1590億円と、ついに子供用を追い抜いてしまったのだ。

「ライフリー」ブランドで、大人用おむつ市場のシェア過半数を握っているのが、ユニ・チャームだ。同社の製品が飛躍したきっかけが、1988年に開発した「尿取りパッド」だった。おむつそのものでなく、パッドを交換する2ピース方式を取り入れたことがユーザーに支持された。大人のおむつ交換は、1日平均6.6回で、健常人のトイレの回数とほぼ同じ。2ピース方式は、コストを安く抑えただけでなく、介護する側の負担を軽くするのに貢献したのである。

■ 介護で最も苦労するのは「排せつ」

2013年8月に実施された内閣府の調査によると、高齢者の介護で苦労したことは、「排せつ」(62.5%)がトップ。続いて、「入浴」(58.3%)、「食事」(49.1%)の順だった。中でも、排せつ時の付き添いやおむつの交換が最も苦労した、という。

 排せつが困難になるのは、要介護度の5段階あるうち、要介護3以上の重度者だ(数字が大きくなるほど重い)。重度者は、自分で上衣やズボンの着脱ができず、第三者からの介助を必要とする。国内で、要介護3以上に該当する人間は、計193万人いる(要介護3:72万人、要介護4:66万人、要介護5:61万人。2012年3月末時点)。自立排せつができないという意味では赤ちゃんと同じだが、この人数はゼロ歳児の100万人超よりもずっと多い。

排せつ障害とは、トイレに行けない、トイレが使えない、トイレで排せつできない、という状態である。運動機能の障害に起因する場合、排便・排尿をつかさどる内蔵機能に起因する場合、さらにトイレで排せつする習慣を失った認知機能の障害に起因する場合などがあり、それらが複雑に絡み合っている。歩行できなくても、座位が取れれば、ベッドサイドにポータブルトイレを設置すればよく、おむつを付けるには至らない。

 いずれにせよ排せつできないということは、社会参加できなくなることにもつながる。介助するにしても、本人の尊厳を大事にすることが何より欠かせない。

■ 虐待するのは“身内”という悲劇

フリープロデューサーの残間里江子さんは、実母の介護でシャワーを浴びせていた際、しゃがんだ時に上から母の糞尿が降ってきて、初めて「覚悟を決めた」と振り返る。ある60代の父を自宅で介護する家族の1人は、「朝になると父のおむつが下がり、背中までびっしょりになっている」と嘆く。ほかにも、高齢で認知症を患い、便いじりをするようなケースもあるという。それだけ介護の現場とは、きれいごとでなく、壮絶なのである。

 特別養護老人ホームや民間の有料老人ホームなど、施設における介護ならまだいい。ホームヘルパーたちはプロであり、もちろん慣れてもおり、介護保険のサービスの中でやっている。が、現実には家族が在宅で介護する方がはるかに多く、そこでは想像を超える重労働が待っているのも忘れてはならない。

 2010年度の厚生労働省の調査によると、「介護でストレスがある」と回答したのは、女性で63.7%、男性で54.2%だった。参考までに、同じ厚労省の調査によると、10年度に起こった高齢者虐待のうち、施設従事者によるものが506件。一方、親族などの介護者によるものは2万5315件だった。虐待はあってはならないが、介護する側の負担を下げる方策も必要だ。

 “介護うつ”や“老老介護”など、いまや介護は日本が抱える社会問題である。大人用オムツの需要拡大は、1億総介護社会の、ほんの一端に過ぎない。