Spotifyが音楽ビジネスに与える衝撃 「ライブ・物販収入へのシフト」を後押しか

音楽ストリーミングサービスの「Spotify」が今月3日、アーティストやレコード会社向けに楽曲使用料や支払いの計算方法などを記したサイト「Spotify Artist」をオープンした。同サイトではこれまであまり語られることのなかったSpotifyのビジネスモデルが詳細に解説されている。サイト開設についてSpotifyのアーティスト・サービス担当ディレクター、マーク・ウィリアムソンは以下のように語る。「CDやiTunesなど音楽フォーマットが変化する時、異なるモデルがどのように機能するのかについて常に混乱が生じ、そして懐疑的な考えが深刻なほど広がります。私達は今、そのような不安が生まれていることを理解しています。だからこそ私達はSpotifyがどのように機能するのかについてできるだけ明確にし、透明性を維持したいのです」。

 Spotifyがこれまでブラックボックスだったビジネスモデルを開示したのは、数々のミュージシャンがそのシステムに不信感を募らせていたからに他ならない。レディオヘッドのトム・ヨークはツイッターで「君たちがSpotifyで見つけた新人アーティストには報酬が支払われていないかもしれない」と発言。またベックもアルゼンチンの新聞でのインタビューで「どうやってミュージシャンを支援していくのかについての質問を、彼らはうまくはぐらかしている。だってSpotifyからの収入では、僕のバンドのミュージシャンやレコードを一緒に作る人への支払いも出来ないからね。彼らのビジネスモデルは機能していないよ」と批判的なコメントしていた。こういった声に対しての回答、Spotifyは音楽業界の敵ではないということを表明するため「Spotify Artist」は立ち上げられたのだろう。

 では実際のところ、Spotifyからミュージシャンに支払われる金額はどれくらいの額になるのだろうか。「Spotify Artist」によるとストリーミング再生1回につき支払われる平均ロイヤリティは0.006ドルから0.0084ドルの間だと記載されている。同サイトでは「このままの速度でSpotifyが成長すれば」という条件付きで、インディーズ・ミュージシャンでも月に17000ドル(約174万円)が楽曲使用料として得られる可能性を説明しているが、あくまで条件付きの参考値、青写真にすぎない。現状の支払額は上記の通り「雀の涙」程度、極めて少ないものと言わざるを得ないだろう。

 もっとも、Spotifyに理解を示すミュージシャンも多い。アメリカのロックバンド「イマジン・ドラゴンズ」のボーカリスト、ダン・レイノルズはそのひとりだ。彼らのシングル「Radioactive」はSpotifyで2013年2番目多く再生された楽曲で、再生回数は1億5400万回以上を記録している。レイノルズはSpotifyからの収益について「残念ながら大きな収入はなかった」と前置きした上で、ミュージシャンは楽曲以外の別の収入源を確保していくべきだと論じる。「CDやレコードの売上は下がったままだ。でも今アーティストはそこから稼いでいるんじゃない。アーティストはライブで稼いでいるんだ。YouTube、Spotify、iTunesとか何かしらのプラットフォームは、ライブに足を運ばせるための手段だ。音楽は、例えばアートスタジオに来てほしい人にあげる招待状のように、誰かに贈るためのものだ」。実際のところ、イマジン・ドラゴンズはSpotifyで火が付いて以降ライブは全てソールドアウト。物販の売れ行きも好調でミュージシャンとして活動していくのに全く不満は見つからないという。「Spotifyを使ってアーティストを見つけて、音楽が好きになったからライブに足を運ぶ人を大勢見てきた。経済的にも僕たちは十分にやれてる。Spotifyのシステムはうまく機能していると思うよ」。

 楽曲収入からライブ収入へ。この流れを後押しするように、Spotifyもアーティストがウェブやデスクトップ、モバイルアプリ内でグッズやチケットを販売出来る機能を無償で提供開始することを発表した。これらの売上に関しては全てアーティストの収入となり、Spotifyのマージンは発生しない。楽曲はプロモーションとして考え、ライブや物販の売上でトータルのリクープを目指す。かねてから語られてきたこの「体験」を重視したビジネスモデルはSpotifyの登場により加速するのか。ミュージシャンのマネタイズ、音楽で「食っていく」ことは今後も可能なのか。イマジン・ドラゴンズのような成功例が他にも登場するのかが注目される。