ネット企業が続々誕生 フィンランドの秘密

人口540万強──。北海道とほぼ同規模の人口にすぎないフィンランドが今、モバイルやインターネット関連のベンチャー集積地として輝きを増している。

中でもゲーム会社が世界的なヒットを飛ばしている。イルッカ・パーナネンCEOが率いるスーパーセルは「クラッシュ・オブ・クラン」と「ヘイ・デイ」の2タイトルが共にスマホアプリの課金ランキングで上位に食い込む。

 今年10月中旬にソフトバンクとガンホー・オンライン・エンターテイメントが共同で同社の株式51%を1515億円で取得すると発表し、日本でも一躍有名となった。

 ロビオ・エンターテインメントも有数のゲームメーカーだ。同社を代表するタイトルは「アングリーバード」。同シリーズは現在9作品まで増えているほか、ゲームのみならず、関連グッズや絵本販売、アニメや教育教材、テーマパークも展開している。最高マーケティング責任者のピーター・ヴェスタバッカ氏は「2012年度売上高のうち、45%はグッズをはじめとしたライセンス収入だった。ゲームだけでない、幅広い展開を志向している」と語る。

■ 進む企業の新陳代謝

 ゲーム2社の躍進の背景にあるのは、ダイナミックに進む国内企業の新陳代謝だ。

 フィンランドを代表する企業といえばピーク時にGDP全体の4%を占めていた携帯電話端末メーカーのノキアである。そのノキアはスマートフォン革命に乗り遅れて業績が低迷。今年9月には7130億円でマイクロソフトへの身売りが決まった。

 皮肉なことに、ノキアの低迷が、ベンチャー創出につながった。たとえばスマホ向けに「セイルフィッシュOS」を提供するジョラは、ノキアで否決されたビジネスプランから生まれたベンチャーだ。

 スーパーセルが12年11月に入居した首都ヘルシンキの新オフィスは、ノキアの元リサーチセンターだった。ロビオの最高執行責任者であるテーム・スイラ氏はノキアの出身で、同社にはノキアOBが多く入社してきているという。

 モバイルやネットに関連したベンチャーが多く育ったのは、ノキアの遺産といえるだろう。

 独自のベンチャー振興策も新陳代謝を後押ししている。

 一つは政府組織「テケス(技術庁)」の存在だ。テケスは企業や研究機関の技術研究プロジェクトに資金を提供する公的機関で、特にリスクの高い、革新的なプロジェクトを支援している。

 設立は1983年と古く、政府から与えられた権限は徐々に拡大。13年の予算は5・5億ユーロで、そのうちベンチャー企業への投資額は1・35億ユーロに及ぶ。ベンチャー投資の規模は10年間で3倍に膨らみ、投資対象となる企業はモバイルやネットに限らず、約600社に上る。

 同庁でマーケティング・広報のエグゼクティブディレクターを務めるウーラ・ヒエッカネン・マケラ氏は「国を挙げて投資しているからこそ、新しいベンチャーを生み出せている。ベンチャーキャピタルと違い、リターンを求めないのも効果大だ」と言う。

 もう一つ、フィンランドのベンチャー創出を後押しする役割を果たしているのが、非営利団体が毎年ヘルシンキで開催している「スラッシュ」というイベントだ。ベンチャー関連イベントとしては、ヨーロッパで最大級の参加者を誇る。