ホリエモンが、もしメディアの経営者だったら

今年11月10日に刑期満了を迎えた、ホリエモンこと堀江貴文氏。ゼロからの出発となるタイミングに合わせて、新刊『ゼロ』を上梓した。出版界のドリームチームを結集し、ミリオンセラーを狙う同作で、ホリエモンが伝えたかったことは何か。1時間半にわたるインタビューを、動画とともに2回に分けて掲載する。

■ テレビはNHKになるしかない

――本のメディアについて話をしてきましたが、次はテレビについて聞きます。テレビというメディアは、堀江さんが2005年ごろにいろいろ仕掛けてから、ネットとの融合などがある程度、進んでいる部分もあると思うのですが、堀江さんが当時、描いていたテレビの未来と今のテレビは近くなってきていますか。

 堀江:全然、近くないです。やるべきことをやっていないですね。

――今、堀江さんがテレビ局の経営者だったら、何をしますか。

 堀江:NHKになるしかない。

――具体的にはどういうことですか。

 堀江:有料サブスクライバー(加入者)モデルにするしかないということですよ。

――テレビに広告が入っていて無料で見られてもですか。

 堀江:広告が入らなくなっているから、経営が苦しくなっているわけでしょう。

――今、ちょっとだけ戻っていますけど。

 堀江:ちょっと戻っているのは、広告収益が戻っているのではなくて、放送外収入が伸びているからですよね。テレビが不動産で儲けてどうするんだと思います。で、これまで入れていなかった広告を入れ始めている。パチンコ、消費者金融、アダルト、よくわからない健康食品とか、以前は絶対に入れなかったようなところを。

――NHKになるということは、月額料金を徴収して米国のケーブルテレビのような形で見せていくということですか。

 堀江:いや、なぜ動画コンテンツのことしか考えないのかが、僕はよくわからない。フジテレビ買収騒動の頃によく言われていたのが、「まだテレビで動画配信を見るわけがない」ということ。そうじゃない。テレビ局が持っている価値は、実はリーチ(到達率)しかない。

――コンテンツ制作能力はありませんか。

 堀江:制作しているのはほとんど制作会社ですからね。テレビ局は、国からもらった免許で安い電波使用料でリーチを仕入れているだけです。

■ 僕だったら東京MXを買う

堀江:でも今、面白い現象が起きています。深夜枠って制作委員会方式で買えるのです。深夜枠を買って、番組を安く作って流して、それをDVD化したりして回収している。作った番組を地方局に「おカネはいらないから流してくれ」と言うと、地方局はコンテンツがタダで手に入るので流しますよね。そうすると、DVDがすごく売れるらしいのです。

 だから、ネットと融合する必要もないというか。東京MXとかを買って、いいコンテンツを作ることができると、すごいことになるかもしれない。僕だったら今、東京MXを買いますね。

――最近、MXは面白くなってきていますよね。

 堀江:MXはすごい新境地を開拓しましたよ。「5時に夢中! 」って、夜の商売の人にとっての「あさイチ」みたいな番組です。

――マツコ・デラックスさんもあの番組から出ました。

 堀江:ミッツ・マングローブさんもそう。僕、ミッツさんと初めて会ったの「5時に夢中! 」ですよ。テレビ局はやっぱりMXがいちばんいいポジションにいると思います。

――では、堀江さんだったらMXを買って、コンテンツに投資をしまくり、地方局に売る、もしくはタダで配る、と。

 堀江:もう何百億円とかけて、いいコンテンツをバンバン投入しますよ。もちろん、オンライン動画配信などもマネタイズしていきますが、いちばん大事なのは月額会員を獲得すること。だから、スマートフォンアプリなどで徹底的に顧客誘導して、月額課金に持っていく。課金しないとできないような参加型のコンテンツを作ります。

 僕が当時、それをテレビ局に説明したら、「凡庸なアイデアしか出てこない」と言われましたけど、どうして凡庸じゃダメなのか。凡庸なものをたくさんやればいいのです。

 今だったら、番組中にアンケートやクイズを出して、スマートフォンでリアルタイム投票して、5秒後に画面に結果を出すとか、ニコニコ動画もやっているようなことを当たり前にやらなければいけないと思うのですが、やっていないですよね。そういう通り一遍のことの積み重ねでいいのに、いまだにやっていないのが信じられない。

――オンラインDVDレンタル事業を手掛ける米国のネットフリックス(関連記事:加入者3000万人! 急成長するネットフリックス)は、100億円も投資して、自社でいいドラマを制作してネット配信しています。そういう企業が日本でも出てくると面白い。 堀江:僕らはそれをやろうとしていたわけですよ。オンラインDVDレンタルサービスって、日本では僕らがいちばん最初に始めましたからね。「ぽすれん」というサービスを。今はゲオに売却されましたが。同時期にツタヤ(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が「ディスカス」を始めました。

 今、いちばんネットフリックスに近い位置にいるのは、DMM.comですよ。まだアダルトがメインですけど、最近、独自制作のコンテンツで「艦隊これくしょん〜艦これ〜」というのがはやっています。まあ、自衛隊の艦隊が美少女キャラになっているという、僕にはよくわからないコンテンツですけど、「艦これ」はすごいです。バズってますよ。DMMの会長がやっぱり先進的なのです。

――アマゾンも自社でスタジオを持ってドラマを制作しています(関連記事:アマゾンがテレビ業界に殴り込み)。米国はネット企業がコンテンツ制作に参入して、業界をかなりかき回していますが、日本にはそういうプレーヤーがいないですよね。 堀江:でも、これから変わりますよ。今度、ドリパスという、ヤフーの子会社になった会社と組んで、僕の小説『拝金』を映画化するのですが、これにヤフーが100%出資します。ヤフーは1年半前に経営陣が大幅に若返って、「爆速」というコンセプトで経営しているので、変わってきています。映画制作も爆速の一環ですよ。

 ドリパスという会社は、みんなが見たい映画をネットでリクエストして、たとえば500人集まったら映画館を貸し切って見られるというサービスを提供する会社です。映画館からすると、確実に席が埋まるので効率がいい。そういうネット企業がコンテンツ制作に乗り出してくるので、映画業界に風穴が開くのではないでしょうか。

 映画のビジネスモデルの難しいところは、配給です。東宝がだいたい牛耳っていて、年間の邦画ランキング20位中、16作品ぐらいが東宝ですからね。

――ドリパスみたいな動きが水面下で出てきているなら、いろいろ変わるかもしれないですね。

 堀江:間違いなく変わるでしょう。

■ メディアの価値とは何か

――われわれはオンラインメディアを運営していますが、オンラインメディアはどうやったら稼げるでしょうか。有料課金は、日経新聞電子版以外はあまり成功していません。堀江さんが経営者ならどうしますか。

堀江:僕は今度、「NewsPicks」のアドバイザーになるのですが、ああいうニュースキュレーションという形が、ひとつの軸になっていくと思います。いいことを言っている人が、いろいろなところに分散していますよね。 ――確かに。

 堀江:あと、今の時代にストレートニュースはあまり響かないと感じています。

――価値が落ちていますよね。

 堀江:なぜ価値が落ちているかというと、やっぱりソーシャルメディアの時代になって、当事者が発信するようになってきたからです。たとえば、自治体の市長が積極的にツイッターやフェイスブックを使って発信していっている。もうメディアをすっ飛ばして、ダイレクトにフォロワーに伝えています。この傾向はますます広まっていく。

 では、メディアの価値とは何なのか。メディアの本質は、情報の仲介者ですよね。でも、仲介する必要がなくなった。ある意味、中抜きですよ。そこにあえて仲介者がいる価値って何だろうと考えたら、ニュースを翻訳することでしょう。

――池上彰さんのような。

 堀江:大前研一さんとか。要はニュースをわかりやすく伝えるということが大事で、そういうメディアを作ればいいのになと思います。だから、僕はやりますよ。20人ぐらいの識者を集めて、市民のためのメディアを作ります。つまり、ニュースの解説をするのですが、ワイドショーみたいな可もなく不可もなくというコメントではないですよ。

 今日もテレビをたまたま見ていたら、ホテルのメニューの偽装事件をやっていました。芝エビじゃなくて、なんちゃらエビを使っていた、みたいな話をねちねちと。それを識者の人たちが「とんでもないですね」「ありえないです」とかコメントして。でも、僕らが聞きたいのはそこではない。ぶっちゃけ偽装されて困るかといったら、たいして困らない。

 多くの会社がおそらく同じようなことをやっていて、今、慌てて社内を調べさせていると思いますが、なぜそういうことが起きてしまうのか、背景を調べなければいけない。

 消費者だって、マグロのトロがその値段で食えるのかとか、ちょっと考えようよと。明らかにおかしいじゃないですか。どういうふうにそのニュースをとらえるべきかを、解説してほしいですよね。

――では、新聞というメディアはどうですか。

 堀江:新聞は、まさにストレートニュースですから、先ほど言ったようなメディアになっています。ただ、宅配のビジネスモデルがやっぱり強固ですね。特に地方新聞のシェアは化け物です。

 僕はいちばん有力なのは地方紙だと思っています。地方紙って、ソーシャルメディア的なところがありますよ。ある地方新聞社の人に聞いたのですが、とにかく地域の読者を3回は紙面に登場させるんだと。生まれた時と、入学した時と、死んだ時。それが地方紙はできるから強い。

――ソーシャル化していますね。

 堀江:地方のニュースはウェブメディアにはあまり載らないので、そこも強いです。ただ、僕的には新聞はコンテンツが多すぎ、広告も多すぎだと思います。ほとんど広告でしょう。

――今度、堀江さんが作る市民メディアは有料ですか。

 堀江:基本、有料です。月額課金が強固なビジネスモデルだと僕は思っているので。

――いつ頃、始まるのですか。

 堀江:来年になると思います。