増え続ける医療費 誰がどれだけ負担しているの?

20131127-00000003-wordleaf-000-2-view国民医療費の増加が止まりません。社会保障制度の問題については年金ばかりがクローズアップされていますが、実は医療費の方がより深刻な状況になっているのです。

厚生労働省が11月14日に発表した「国民医療費の概況」によると、2011年度の国民医療費の総額は38兆6000億円となり、前年度に比べて3.1%の増加となりました。同省では、医療費の伸びは年金をはるかに上回ると予想しており、医療費の負担増大は大きな社会問題となりつつあります。

 医療費の増加がどのような問題を引き起こすのかを知るためには、日本における医療費負担の仕組みを知る必要があります。現在、日本は皆保険制度を採用していますから、保険料の滞納さえなければ、医療費のほとんどを公的な保険でまかなうことができます。

国の補助が4割

一般的な勤労世帯の医療費における自己負担率(窓口負担)は3割ですから、残りの7割は保険でカバーされています。つまり医者にかかって3000円の治療費を支払った場合には、実際には10000円の治療費がかかっているわけです。残りの7000円はどう捻出されているかというと、毎月の給料から差し引かれる保険料を原資とする公的保険が支払っています。

 しかし、この保険制度も、国民からの保険料だけではお金が足りない状況です。このため、雇い主である会社からも保険料を徴収し、さらに国が多額の補填をしてようやく制度を維持できているというのが実情なのです。

 窓口負担が3割といっても、がんの治療などでは治療費の総額が月100万円を超えることもあるため、実際には自己負担率をさらに下げる措置が設けられています。最終的には、国からの補助(税金)が4割、企業からの保険料徴収が2割、国民からの保険料徴収が3割、患者の自己負担は1割程度になります。

 しかし、この状態も長く維持することが難しくなりつつあります。それは、日本の高齢化が急ピッチで進んでいるからです。高齢者が増えるほど病気も増えてきますから、その分、医療費も膨れ上がります。一方、日本の財政は危機的な状況となっており、増加する医療費を支える余裕がもうなくなっているのです。

無駄な医療費は削減できる?


医療費の増加を防ぐためムダな医療費を削減せよとの声もありますが、実行するのはなかなか難しいでしょう。65歳以上の医療費の中で、がん、心臓疾患、脳血管疾患といった命に直接関わる病気が占める割合は40%に達しており、この部分はそう簡単に削ることができないからです。またジェネリック医薬品の活用など薬価を抑制しようという動きもありますが、薬に関する支出は医療費の17%しかなく大きな削減は期待できません。
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 命に関わる病気への治療費は維持しながら、全体の医療費を削減するとなると、一般的な医療サービスの水準を劇的に低下させるか、国民負担を大幅に増やす以外に解決策はありません。貧富の差に関係なく全員が利用を受けられるという皆保険制度を維持させるには、このどちらか、あるいは両方を国民が受け入れる必要があります。また日本には富裕層があまりいませんから、富裕層からお金を徴収するという手段も選択できません。

 同じく医療費増大に苦しむ一部の北欧諸国のように、寸刻を争う状態でない限りは、手術をするのに3カ月や半年待たされるのは当たり前という厳しい時代がやってくる日は近いでしょう。