虚偽表示、立件にハードル=行政処分も「切りない」−法改正求める声も〔深層探訪〕

20131105-00000108-san-000-4-viewメニューの虚偽表示は、ホテルやレストランに続き、大手百貨店でも相次ぎ発覚、消費者の信頼を大きく揺るがす事態に発展した。消費者庁の阿南久長官は「業界全体が汚染されている」と批判したが、刑事事件としての立件には高いハードルがある。行政処分に向けた調査も「切りがない」状況で、全てを調べるのは事実上不可能だ。消費者団体からは「法改正が必要」との声も出ている。

外食は「性善説」

食材の原産地を偽る表示に刑事罰を科す法律には、日本農林規格(JAS)法と不正競争防止法がある。ただ、JAS法が規制するのは流通過程にある生鮮食品と加工食品で、レストランなどで提供される料理は、そもそも対象外。不正競争防止法違反での立件には、同業者よりも有利に商品を販売して不正に利益を得る目的や、虚偽と知りつつ、故意に表示したことを立証する必要がある。
 不正競争防止法を所管する経済産業省によると、メニューの虚偽表示は、故意の立証次第で刑事事件に発展する可能性があるが、過去の摘発例は偽装商品を販売したケースばかりだ。宮城大の大泉一貫教授(食品流通事業論)は「(同法は)商品販売業者を性悪説に立って規制している。外食は商品とは違うサービス。客と店員が会話し、信頼関係を築けるため、性善説で考えられている」と解説した。
 一連の虚偽表示が抵触する可能性が高いのは、景品表示法の不当表示(優良誤認)だ。
 メニューを見た消費者が、実際の料理よりも優れていると誤認するか否かが違法性の判断基準で、故意のない過失でも適用できる。メニューに「京地鶏」と表示し、ブロイラーを使った料理を提供したホテルなどが、消費者庁から再発防止を求める行政処分(措置命令)を受けた例などがある。命令に従えば刑事罰は科されない。

「課徴金導入を」

消費者庁は、悪質な偽装が疑われる企業に対し、厳正に対処する方針で、立ち入り調査も辞さない構えだ。阿南長官は阪急阪神ホテルズ(大阪市)を「自主的に改善策をやっていけるのか疑問」と批判、同庁は処分も念頭に調査を進める。
 ただ、次々と発覚する虚偽表示を全て調査するのは困難だ。「あまりにも続出しており、切りがない」(阿南長官)状況に、同庁は、業界の「自浄作用」に期待し、日本ホテル協会(東京)などに表示適正化への取り組み強化を求めた。
 主婦連合会の佐野真理子事務局長は「景表法は商品もサービスも網羅して規制しているが、措置命令では抑止力にならない。課徴金を導入するなどの法改正が必要だ」と話している。