沢尻エリカは復活なるか…「別にぃ」の裏に秘められていた真意は

20131109-00000520-san-000-5-view「別にぃ…」。華々しい映画の完成披露試写会場で、主演作についてのコメントを求められ、こんな投げやりな捨てゼリフを発し、マスコミからバッシングを受け、一時表舞台から姿を消していた女優、沢尻エリカさん。その後、映画で復帰したものの体調を崩すなど再び沈黙していた彼女が、今月18日午後9時放送のスペシャルドラマ『時計屋の娘』(毎日系)で“再起”を賭ける。女優としての復活なるか、映画関係者らも注目している。

順調な銀幕デビュー

映画『パッチギ!』のヒロイン役で凛(りん)とした存在感を示し、銀幕の新星として大きな期待を担っていたころが懐かしい。

 映画デビュー間もないころ、大阪で彼女を取材した。大阪市内の映画宣伝会社の事務所の応接コーナーが取材場所だった。おしゃれな帽子を被って現れた彼女はまだ18歳。ほとんど化粧もせず、取材慣れもしていない気さくさを漂わせた普通の女の子−というイメージだったが、フランス人の母を持つハーフでモデル出身。内面から放たれる女優としての華やかさは隠しようがなく、取材場所に使われたふだんは質素な事務所の一角がオーラに包まれていたことを思い出す。

 「将来はどんな女優に?」と聞くと彼女はこう答えた。「私は別に女優になりたくてなったわけではないので、いつ辞めてもいいと思っているんです」

 18歳の女性としての本音を素直に口にした。決して投げやりな言い方ではなかった。むしろ好感を持った。しかし、この言葉を聞いて、今後、彼女は芸能界で苦労するだろうなと想像した。「生き馬の目を抜く」という言葉が厳然と残る芸能界において、この自覚で生き抜くには幼な過ぎると思われた。

 このとき彼女は、すでに自分が競争相手から目標とされる映画女優になっているという自覚を、まだ持っていなかった。

 その“危うさ”が数年後に発露した。

 完成披露の場で「印象に残った場面は」と聞かれた主演女優が「別にぃ…」と答えたらどうなるか。周囲が自分を見る目はデビュー当時から大きく変化しているのに、それに気づかず自分だけが成長せず取り残された状況で、あの事件は起きてしまった。

映画界の期待を担い

『パッチギ!』で彼女はキョンジャという名の在日朝鮮人の高校生を演じた。透明感漂わせ、かつ意志の強さがにじみ出る独特の存在感で、彼女は間違いなく多くの映画関係者から注目を浴びた。

 取材で彼女は「役作りのために、在日の方たちから民族衣装のチマチョゴリの着方や朝鮮半島の歴史を教えてもらったんですよ」とうれしそうに語っていた。「私はキョンジャを演じることで勇気をもらいました」と語る彼女の表情は映画女優の魅力に開眼し、現場が楽しくてしかたないように見えた。

 そんな彼女の“天性”に惹かれ、『パッチギ!』以後の取材で、彼女を配役したいと口にする監督は少なくなかった。

 その後も彼女は映画『手紙』『クローズド・ノート』でも控えめで地味な役どころのヒロインを好演。本来持つ華やかさを内に閉じ込め、嫌み無く地味な役柄の中に昇華できる若い女優は貴重な存在だ。それをできる彼女の天性に映画界は期待していたのだ。

新たな女優の覚悟

『時計屋の娘』での彼女の役どころは、東日本大震災で母を亡くし、健気に生きる清楚で優しい娘…。かつて彼女が得意とした地味で素朴な役柄だ。ドラマのプロデューサーが彼女にかけた依頼の言葉は「どこにでもいる女性を演じてもらいたい」だったという。デビュー当時の彼女の女優としての本来の持ち味が見られそうだ。

 「私は女優の頂点を目指します」。デビュー時に、こんな自覚をしている女優の方が、今の時代は大成するのかもしれない。取材時も役柄同様に演じていれば、バッシングを受ける事件を起こす心配もない。

 単独インタビューでは不機嫌だったのに、その後の舞台挨拶では満面笑みを浮かべていた−という俳優も少なくない。舞台挨拶の短い時間を“演じる”ことさえせず、素のままで本音を語ってしまう彼女は、むしろ素直で不器用な可愛げのある女性だと思う。それだけに、ドラマに引き続き、銀幕でのカムバックを果たしてほしい。

 18歳のときに、「いつ女優を辞めても構わない」と語っていた彼女が、27歳の今、自分の意思で再び女優の道を歩もうとしている。その覚悟を大スクリーンでもう一度確かめたい、と期待を込めて見守っている映画人は少なくない。