なぜそこまで大きな騒動になってしまったのか。小野伸二、豪州での引退報道の真相

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引退報道の真相 小野伸二、豪州での引退報道の真相

10月28日付でFIFAの公式サイトFIFA.comに「小野伸二、オーストラリアでの引退を希望」という見出しが躍った。

 通信社であるAFPが配信したその記事に、最初にざっと目を通して思い出したのは、昨季の取材時に聞いた「今の環境にものすごく満足している」という小野自身のセリフ。「それだけ、ここでのプレーが気に入っているんだな」とオーストラリアのサッカーを長年追ってきた身にしてみれば、ちょっとした感慨すら覚えた。

 しかし、記事をじっくりと読み返してからは、そんな感想も「もしや、(小野の)真意が伝わっていないのでは」という全く違う感想に変わった。そのAFPの配信記事自体が、地元紙であるシドニー・モーニング・ヘラルド紙からの引用(いわば孫引き)であることに気付いたからだ。

 小野が、ヘラルド紙の取材に対して「今の環境に満足している」「出来るだけ長くウエスタン・シドニー・ワンダラーズ(以下WSW)でプレーしたい」と語ったのが、拡大解釈されて「オーストラリアでキャリアを終えたい」という大きな見出しとなり、瞬く間に伝播した――これが正しいところであろう。

 小野自身は、余りの反響の大きさに29日なってから「何かこっちの新聞で「引退」的な話になってますが、そんなわけないでしょ!!(笑)。よく言ってますが、この体が動くまではいつまでもやりますよ!!だって、サッカーが好きだから。」とツィート。記事の内容、そしてそこから派生した噂の全てを完全に否定した。

地元メディアとの「摩擦」 小野伸二、豪州での引退報道の真相

小野に関して、ここで触れておかなければいけない一つの出来事がある。小野は、地元マスコミとのちょっとした「摩擦」に巻き込まれたのである。そもそも「摩擦」という言葉が、先日起きた事の顛末を端的に表しているとは言い難い。

 というのも、小野自身はまったくこの事態を意図していなかったであろうし、なぜこれが一部メディアによって批判的に取り上げられたかも未だに解せないでいるのかもしれない。ともあれ、ここでは簡単に「摩擦」の経緯を振り返っておく。

 10月18日、複数の現地メディアは事前の告知に基づき小野の取材を行うために、シドニー西郊のWSWの練習場に赴いた。

 現地メディアに対応する直前に5分ほど日本メディアの取材を受けた小野だったが、待っていた現地メディアには、“We have done already, yeah I’m sorry ,thank you.(もう終わりましたよね、すいませんが。ありがとう。)”という短い言葉を残して立ち去り、待っていた現地メディアを驚かせた。その後、小野の行動に関して、WSWのメディア・マネージャーはメディアに謝罪をしたという。

 余程、それが面白くなかったのかサッカー専門誌「Four Four Two」は、その日の夜、過去にメディア対応のまずさでメディアと軋轢を持ったラグビー選手を引き合いに出して、その日の小野の対応を批判する記事をウェブに掲載。

 それにFOX Sportsなどのメディアも追随して、現地報道の焼き直しを流す一部の日本メディアの記事がアップされるに至って、事件は瞬く間に伝播していったのだ。
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きっかけはちょっとした齟齬 小野伸二、豪州での引退報道の真相

長く、小野伸二と言う選手を知る人であれば、「彼ほどメディアにもファンにも、きちんと接する選手はいない」、そして「(そんな摩擦が生じるなんて)何かの誤解だろう」と、一様に同じことを思うのであろう。
 
 それでも、代表選手が待ち構える多くのメディアの前をノーコメントで素通りすることもある日本と違い、いかなる状況でも選手にメディア対応を当然として求める当地流に当てはめれば、「取材拒否」と取られかねない。この件は、一言で言えば、コミュニケーションのちょっとした齟齬、感覚、意識の違いが表面化したに過ぎない。

 もし、小野自身がそういう当地メディアにある暗黙のルールを知っていて、今回のように対応したのであれば、部外者があずかり知らない何らかの理由があっての行為なのであろう。とはいえ、この件について、まだ小野本人から何も聞けていない私が、彼の心中を忖度することはできない。

 しかし、誰もが予期しなかった今回の小野の行動が、結果的に現地メディアに不信感を与えたのも事実。さらには、小野自身にも現地メディアに対しての警戒感が芽生えている事実をも炙り出した。

 そんな伏線がある中で、冒頭の今回の「オーストラリアで引退か」との報道が流れた。小野にしてみれば、またしても「そんなこと言ってないけども…」という気持ちなのだろう。それがゆえに、上記のような久しぶりのツィッターの日本語更新での完全否定へと繋がってくるのである。

騒ぎが大きくなるのはそれだけ存在が大きいから 小野伸二、豪州での引退報道の真相

そもそも、今回のようなことがトピックして語られ、それに人々が反応する―これは、当地で確立された小野の人気の証明と言える。今や、創立間もないWSWの生けるレジェンドとなった小野のAリーグでのプレーが、2季目の今シーズンで終わるのか、それより長く続くのか、その答えは、今は小野本人にも分からないというのが正しいところであろう。

 ただ、間違いなく言えるのは、小野自身がオーストラリアでのプレーをエンジョイしていると言う事実。色々な要素があいまって、来年、小野の3季目のシーズンを見られる可能性は決して低くは無い。

 一方で、もし、彼に相応しい場が与えられるのであれば、日本帰国、J復帰という目も大いにあると見ていいだろう。本人をして「ここ数年で一番体がキレている」という絶好のコンディションで、Jリーグで再び自らのプレゼンスをという願望を小野は間違いなく持っている。

 これは、筆者の個人的な願望ではあるが、小野と同じ静岡・沼津にルーツを持つ身としては、現在Jリーグ準加盟して来季のJ3参入を目指しているアスルクラロ沼津が数年後に小野に相応しい場で戦うことが実現した折、故郷のクラブのチームの支柱としてプレーする小野の姿を夢想したりもするのである。

 オーストラリアでの2季目のシーズンが始まったばかりのこのタイミングで、彼の去就に関わるようなことを語るのは時宜を得ていないことは承知の上だが、今回の報道に関わる騒動(というほど大きなものでもないが)は、小野伸二という選手の存在の大きさをあらためて感じさせるには充分な出来事だった。

 小野伸二の「オーストラリアでの引退」報道は、本人によって完全に否定された。これにて、小野伸二の去就に関する噂や推測にはピリオドを打つことにして、今後は、彼のAリーグでの活躍を日本の皆様にお届けできればと思っている。