人気回復 USJの両輪戦略とは? 大阪の観光促進・経済波及にも期待

20131102-00000003-wordleaf-000-6-view開業30週年を迎えた東京ディズニーランドが注目を浴びている。しかし、西のテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」も負けてはいない。入場者数は順調に伸びを見せており、2012年度は975万人が来場。今年度は開業来の年間1000万人に届く勢いとなっている。さらに2014年には映画「ハリーポッター」のアトラクションが開業する予定で、USJはじめ地元経済はこの勢いに弾みを付けたい考えだ。

入場者数を増やした両輪戦略

ハロウィンの31日午後7時前。陽は沈み、あたりは真っ暗。テーマパークなのに照明は暗い。あちらこちらで「キャー、キャー」という女性の楽しそうな悲鳴が聞こえてくる。ゾンビにふんしたUSJのエンターテイナーたち200人が奇声を上げながら来場者を“襲う”。なかには本物のチェーンソーのエンジン音を鳴らしながら歩くゾンビもいる。もちろん刃はないが、仮装や動作は非常にリアルだ。小さな子どもたちなら泣きだすだろう。

バイオハザードやスパイダーマンといった映画の世界を追体験できるテーマパーク。これがUSJの魅力の一つだ。しかし、開業した2001年度に入場者数は1102万9000人を記録したものの、翌年度は反動で763万6000人に。しばらくは800万人台で推移していたが、以降、リーマンショックの影響などもあり、750万人台の年が続いていた。これが目に見えて上昇に転じたのは2011年度。870万人に達し、翌年度は975万人を記録した。キーワードは「両輪戦略」。

確かにリアルなゾンビのように、大人が楽しめるイベントは若い世代、とりわけ女性に喜ばれる。一方で、ベビーカーを押すような子供連れにとって、そんな演出やターミネーターやジュラシック・パークといった小さな子どもが怖がるアトラクションは楽しみたくても楽しめない事情がある。子どもたちが参加できるファミリー向けのアトラクションはできないだろうか? それを実現したのが12年3月にオープンした「ユニバーサル・ワンダーランド」だった。「女性向け」と「ファミリー向け」のアトラクションを充実させ、それらを事業の「両輪」として機能させるという戦略、それが「両輪戦略」だ。

子どもが楽しめる「ファミリー向け」アトラクション

20131102-00000003-wordleaf-002-6-viewユニバーサル・ワンダーランドの世界は、ゾンビの世界とは180度違う。大きな方針転換といえる。2004年に導入したハローキティ、スヌーピーなど点在していた子どもにやさしいコンテンツを一か所に集めた。ワンダーランドに踏み入れるとセサミ・ストリートのエルモらが向かい入れる。子どもが遊ぶ場所の地面には、倒れても大丈夫なように柔らかい素材で覆った。スロープはゆるやかにし、授乳室も充実させた。乗り物の周りにはベビーカーの“車列”ができ、母親らは子どもが遊ぶ姿をスマートフォンで撮影している。来場者が安心して過ごせるようにと、大人が楽しい映画の世界と場を分けた。

結婚前の若いカップルには大人向けの映画アトラクションを楽しんでもらい、子どもができてからはファミリー向けアトラクションで時間を過ごす。そしてその子どもたちが大きくなったら……。テーマパークを持続して運営していくうえでの好循環ができつつある。

この戦略によって親子連れの入場者数は1.3倍に増えた。確実にリピーターを獲得し、集客は順調に推移している。USJの高橋丈太広報室長は「天候などにより、入場者は大きく影響を受ける。実利を優先しており、1000万人という数字は強く意識はしていない」と話すが、両輪戦略については「はっきりとした攻め方が出来てきた」と高く評価する。

2014年オープン 「ハリー・ポッター」にかける期待

両輪戦略でアトラクション好きのコア層とファミリー層でリピーターを獲得したUSJは、近畿圏の来場者だけでなく、首都圏や海外からの集客増を課題としている。

その起爆剤として期待されているのが、2014年後半にオープンを予定している映画「ハリー・ポッター」のアトラクション。複数のアトラクションで構成し、「ホグワーツ城」など映画の世界を忠実に再現するという。通常のアトラクションであれば100億円程度のところ、総投資額450億円をかけた。アジアではシンガポールにUSJがあるが、ハリー・ポッターのアトラクションは日本だけとなる。

今年9月、USJは旅行代理店のJTBとオフィシャル・トラベル・パートナー契約を結んだ。JTBはUSJのオープン時間より前に早く入場できる「アーリーエントリー・プログラム」を来年4月に導入する。1時間、2時間のアトラクション待ち時間は当たり前という状態にあって、JTB西日本の岡部久人西日本広報室課長は「時間メリットは大きい」とUSJとの提携に大きな期待をかける。

「大阪観光のなかで、USJが占めるウエイトは大きい」と話し、ハリー・ポッターに合わせ、吉本興業をはじめとしたお笑い、101年目を迎えた通天閣、来春全面開業する「あべのハルカス」など大阪の魅力あるコンテンツを売り込んでいく。修学旅行需要や法人セールスにも自信を見せる。

関西大学の宮本勝浩教授は、USJがハリー・ポッターをオープンさせた今後10年間にもたらす経済波及効果について、近畿で3兆1000億円、全国では5兆6000億円になると試算。「2020年外国人旅行者650万人達成」を観光戦略に掲げる大阪府にとってもUSJにかける期待は大きい。