伊豆大島 「しげちゃん、どこ」50年来親友、毎日現場へ

20131030-00000079-san-000-3-view東京都大島町(伊豆大島)が台風26号による土石流に見舞われて30日で2週間。33人の死亡が確認され、今も9人の行方が分かっていない。その一人である自営業、山下成男(しげお)さん(71)の親友で、飲食店主の小川護郎(ごろう)さん(68)=同町岡田新開=は毎日、山下さんが流された現場を訪れている。「しげちゃん、早く見つかってくれよ」。そう願いながら、この日も泥に埋まった山下さん宅の跡をじっと見つめた。

山下さん夫妻は16日未明、最も被害が大きかった元町神達地区で土石流にのまれたとみられる。自宅は海の近くにある元町大昇地区の団地だが、犬を飼うため今年7月から元町神達地区の空き家を借りており、この夜も2人で泊まっていたという。妻光子さん(64)は遺体で見つかった。

 山下成男さんと小川さんは50年来の親友で、かつて勤務していた鮮魚店で同僚だった。21年間一緒に働き、生死も共にした仲だった。

 1969年3月21日朝。海がしけていたため、小川さんは山下さんとともにイセエビのいけすを回収するため元町港の桟橋へ行った時、乗っていた1トントラックごと波にさらわれて海に落ちた。小川さんは無我夢中で脱出し、山下さんにいけすをつかませ、2人とも一命を取り留めた。

 以来、毎年その時期になると2人で酒を酌み交わした。「護郎君がいなきゃ俺は死んでたよ」「お互いさまでしょう」。よくそんな会話をした。「一緒に死にかけて、一緒に乗り越えた。だから『今回はなんでだよ?』ってばかり思う」

 一番最近に会ったのは1カ月ほど前、店で使う魚を山下さんに届けてもらった時だった。今回の台風で小川さんの自宅の周囲にも泥が入り込んだが、片付けも手につかず、連日長靴を履いて元町神達地区の現場に行く。

 「行っても、しげちゃんはいないとは分かっている。でも、どうしても足が向いてしまう。今は早く出てきてほしい。ただ、それだけだ」