サッポロがいまSNSを強化する意味

フェイスブック、ツイッターなどソーシャルメディア(SNS)の利用が膨らむなか、企業もこれに対応する動きが目立っている。

サッポロホールディングス傘下のサッポロビールは、酒類業界ではいち早くフェイスブック上に公式サイトをオープンするなど、SNSへの取り組みで先行していた。サッポロビールは、日本オラクルの新製品であるソーシャルメディア管理アプリを国内企業として初めて導入。ソーシャル関連は今年の日本オラクルの東京イベントにおいてひとつの目玉となっており、その先行事例に注目が集まった。

 10月22〜23日に、東京・恵比寿で開かれた日本オラクルのイベント「Oracle Days Tokyo 2013」。70のセッションには5300人あまりの来場者が詰め掛けた。22日はデータベースやデータマシン(エンジニアドシステム)中心に構成し、23日はクラウドやソーシャルなど顧客との関係に着目したテーマが並んだ。この23日午後に行われた講演に一番手で登壇したのが、サッポロビールのデジタルマーケティング室の森勇一氏だった。

■ サッポロはコンテンツへのコメント率を重視

 森氏は、「サッポロビールのソーシャルコミュニケーション戦略」と題する講演において、まず、自社でソーシャルサイトも運営する意義を説明した。代理店を入れれば楽だが、顧客との接点が減り、その心理を知ることができなくなる。むしろ、直接コミュニケーションすることの重要性を語った。そして、双方向のメディアであることの意義から、ソーシャル上でいかに反応してもらうか、そこを重視しているとした。

 実際に、サッポロが注目するのはコンテンツ1本当たりの「いいね! 」やコメント数の比率。「いいね! 」がつくものは、同業他社が1%前後となるなか3.7%と群を抜く(13年9月)、また、コメントの数も同業他社が0.005%程度となるなか、0.024%と高くなっており、取り組みの成果が出ている。

 サッポロビールがフェイスブックで公式サイトを開設したのは2011年5月。同業他社に先駆けてのスタートだった。まず重視したのは、投稿のタイミングだ。独り言になってしまっては意味がない。読まれて反応も期待できるタイミングにコンテンツを投稿したい。そこで、「いいね! 」というフェイスブックの反応がある時間帯を調べ、そこに配信を集中させることで効果を上げたという。やはりビールなど酒類業界の大手だけに、いちばん効果的なのは18時。これから一杯飲みに行くか、帰って飲むかという時間帯であり、そこでのコンテンツ配信が多かった。

そもそも、サッポロビールがソーシャルに力を入れた背景には、2010年頃から同社のウェブページへのアクセスが減っていたことがあった。「ソーシャルのほうに人がいる状態になっていた。ただ、あくまでも本店はウェブ。人通りの多いソーシャルに出店して呼び込もうと考えた」(森氏)という。毎日夕方に配信するコンテンツについては、酒の肴レシピが鉄板という。お酒に合うものに限定し、しかも短時間でできるもの中心。これを月曜中心に配信している。合間には新製品情報やキャンペーン、プレゼントなどを入れて、ファンとの関係を築いている。意外に注意しているのは、ビールなどの画像。同じものを使わないように、日々の飲酒でも撮影を忘れないようにしていると森氏は説明した。

 そのサッポロのソーシャルに対する取り組みの強さがさらに鮮明となったのが、今回、オラクルのソーシャルメディア管理アプリを国内企業で初めて導入したことだ。

■ オラクルの新製品を国内初導入

 10月16日、日本オラクルは、新製品「オラクル・ソーシャル・リレーションシップ・マネジメント(オラクルSRM)」の国内提供の開始を発表。同時に先行事例としてサッポロビールが日本初採用した旨も明らかにしていた。

 オラクルSRMは、クラウド型のソーシャルメディア管理アプリケーション。ソーシャルメディア上でのブランドの存在感を確立し育てるためのツールだ。オラクルが12年に買収したコレクトインテレクト、インボルバー、ビットルーの3社の製品を統合したもので、フェイスブック、ツイッター、グーグル+へ一括投稿できる簡便さに加え、ブランドの一貫性も保つことができる。マーケティング効果としても、「いいね! 」の変遷、投稿へのリアクション分析、性別・年代別・地域別比較、曜日・時間帯別比較など一般的に必要とされる機能をすべてそろえる。さらに、キャンペーンなどのイベントもかんたんに打てる仕組みになっている。読者による投稿写真のアップなどもスムーズだ。

 つまり、コンテンツの作成からメッセージング、反応のモニタリング、効果測定分析まで一貫でできてしまうサービスだ。

 サッポロビールでは、日本オラクルの営業担当者に3回説明を受けただけで導入を決めた。効果はさっそく表れ、コンテンツ作成のスピードアップに加え、クラウドであるため、イベントのたびにサーバー設定などで膨らんだコストを大きく絞り込むことができたという。そして、同社がオラクルSRMを導入して、間もなく実施したイベントがハロウィン企画だ。

■ タイムリーなキャンペーンを実施

 新アプリを活用した本格的なソーシャルでのイベントが、サッポロビールの販売するワイン「ミティーク」のキャンペーンだ。9月24日に第一弾の「デュオ・ミティーク(赤)プレゼント」を実施、スマホ経由中心に多数の応募を集めた。続く第二弾は、10月8日から始まった「ミティーク×ハロウィンフォトコンテスト」。ここでは、新サービスの写真投稿、表示機能がフルに活用された。ミティークとハロウィン写真を撮ってもらい投稿してもらうというもので、11月5日が締め切りとなっている。まだ受付中だが、応募者によってさまざまにデコレートされたミティークの写真が随時一覧されている。

 ただ、写真を撮影してもらう際にアルコールメーカーらしい縛りもある。まず、この種の写真で人気の高い動物入り写真は動物愛護の観点から掲載できない。また、子どもなど未成年者も未成年飲酒防止の観点でダメだという。実際、ペットと写した写真の投稿はあったものの、泣く泣く非採用にしたとのことだ。アルコール業界は、テレビCMも18時以降でないと打てないなど規制は多い。そのなかで、ファンをいかに増やすか、ソーシャルが、その最前線に位置づけられている。

 オラクルSRMには今後、言語解析機能も追加される予定だ。買収したコレクティブインテレクト社の技術で英語版などではすでに出ており利用できるが、日本語化は少し時間がかかるようだ。ソーシャル上で語られるコメントの中身を分析するもので、現在の「いいね! 」やコメントの件数というベースから、ネガティブなコメントかポジティブなコメントかの分類も可能になってくる。企業のソーシャル活用はますます進む可能性がある。