「ヤフーは間違っていた」と孫社長 EC出店料の無料化という「革命」に打って出る狙いは

「きょうは革命的な内容をご説明する」――ヤフー会長を務めるソフトバンクの孫正義社長は10月7日、「Yahoo!ショッピング」の出店者イベント「ストアカンファレンス2013」で講演、「Yahoo!ショッピング」「ヤフオク!」の出店料無料化を発表した。

出店のハードルを大きく下げ、出店者数・出品数を拡大。「インターネットで買えないものはないという世界を作りたい」という。国内ショッピングモール市場シェアナンバーワンの「楽天市場」を2019年までに抜き、「国内最大のECの場」を構築。ビジネスモデルは転換し、広告収入を収益の柱にすえる。

 ヤフーのイベントに孫会長が登壇するのは異例。孫会長を迎えた会場は熱気に包まれ、「今までみなさんがお支払いしていた出店料、売り上げロイヤルティは全部タダ」と話すと、驚きの笑いと拍手が上がった。

●個人の出店も可能に

 「Yahoo!ショッピング」のストア出店料(初期費用2万1000円、月額費用2万5000円)と売り上げロイヤルティ(売り上げの1.7〜6.0%)は、今月から完全無料化。販売店は、「Tポイント」の原資負担(売り上げの1%〜15%)や決済手数料など一部の費用を支払うだけで出店・販売できるようになる。

 「革命という言葉には、自由という言葉が似合う」(孫会長)――Yahoo!ショッピングからの外部リンクを開放するほか、Yahoo!ショッピング出店者から顧客へのメール送信の制限などを撤廃するなど「全部自由、無料にする」ことで、遅くとも2019年までにショッピングモール市場ナンバーワン奪取を狙う。

 「ヤフオク!」の出店料(月額1万8900円)も無料化。ヤフオク!ではさらに、個人の出品システム利用料を原則無料化(Yahoo!プレミアム会員への登録が必要)する。また、年内をめどにYahoo!ショッピングにも個人が出店できるようにする。

●手数料ビジネスからメディアビジネスに

 ビジネスモデルは手数料型からメディア型に大きく転換。出店料収入を失う代わりに、広告収入の拡大を狙う。

 例えば、商品の検索結果に優先表示する広告枠を新たに作り、出店者に販売したり、「Yahoo!知恵袋」「Yahoo!検索」などヤフーが運営するサービスに表示する新広告を作るなどして広告収入を拡大する計画。無料化によって出店・出品が増え、モールの規模が拡大すれば、広告収入も拡大できると読む。

 ただYahoo!ショッピングは商品検索の精度が低いなど使い勝手に課題が多く、広告を増やすことで使い勝手がさらに悪くなる恐れもある。小澤隆生ショッピングカンパニー長によると、エンジニアを従来より5倍に増やすなど人材を増強し、機能改善を急いでいるという。

●「ヤフーは間違っていた」「主役が交代」

 「ヤフーは間違っていた。Yahoo!JAPANはさまざまな囲い込みをしようという小さな、いじけた心を持っていたが、そういうものは全部忘れる」と孫会長は話す。

 無料化によって「ECの摩擦係数をゼロ」にし、「自由で解き放たれたオープンな環境」という「インターネットが本来あるべき姿」に立ち戻ると孫会長。清教徒革命やアメリカ独立戦争など歴史的な革命になぞらえ、「主役が交代する」と話す。

 主役が楽天市場からYahoo!ショッピングに交代する――のではなく、主役が「場を提供する地主」(ヤフー)から「出店者」に交代するのだと孫会長。イベントに集まった出店者に「みなさまが主役。同志であるみなさまと一緒に、EC革命を実現したい」と熱っぽく呼びかけた。

 今回の施策に楽天に対抗する意図があるか問われた孫会長は、「野球ではだいぶ負けましたからね」と笑顔を見せつつ、「みんなが競争して切磋琢磨することが一番発展につながる」と話すにとどめた。Amazonについては、「巨大な1つの店と、大勢の日本の店、どちらが勝つかだ」と、対抗心をのぞかせた。

 ヤフーでショッピング事業の責任者を務めた経験もある宮坂社長も、「楽天に対抗したわけではない」と話す。「先行企業の後追いをやっていたのが根本的な間違いだった。後発はまねでは勝てない。これまでのビジネスモデルと全然違う、地図のない世界だ」(宮坂社長)

●夏から検討、爆速で実現

 宮坂社長は無料化の可能性を「昨年の冬ぐらいに検討し始めた」が、「瞬間的な減収が大きい」ためいったん見送っていた。だが今夏、孫会長などと議論する中で「もっとドラスティックにやったほうがいいのでは」(小澤執行役員)と判断した。今回の無料化の「言い出しっぺ」は孫会長だったという。

 無料化によってヤフーは「四半期で二けた億円ぐらいの売り上げが消える」(宮坂社長)が、ほかの事業でカバーする計画という。