オネエ なぜもてる? 日陰の花から毒舌ヒマワリに

20130926-00000003-maiall-000-4-view◇テレビの「便利屋」で本望よ

 いまやテレビにオネエは欠かせない存在らしい。バラエティー番組には引っぱりだこだし、ドラマ「半沢直樹」では歌舞伎役者、片岡愛之助さんが濃いオネエキャラを演じてもいた。かつては日陰の身であったオネエ、どうしてそんなにモテる?

目にした瞬間から気になって、気になって。東京ローカルのテレビ局「TOKYO MX」の情報バラエティー「5時に夢中!」。月曜から土曜まで、その日の新聞記事を俎上(そじょう)に日替わりコメンテーターがぶっちゃけトーク。下ネタもたっぷりで、深夜、新宿のバーで飲んでいる感じ。そんなスタジオで、ひときわ異彩を放っているのが、女装コラムニストのマツコ・デラックスさん(40)と、女装家のミッツ・マングローブさん(38)、2人のオネエたち。

 なんでも、このマイナー局の、このマイナー番組こそ大ブレークしたマツコさん、ミッツさんのホームグラウンドとか。で、うわさの担当プロデューサー、大川貴史さん(41)を東京・半蔵門のMXに訪ねた。元結婚式場で、階段は大理石、たった一つのスタジオは喫茶ルームを改装している。「うち、ホント、予算がなくてね。2005年にスタートしたころはスポンサーもなし。じゃあ、どこにも気兼ねしなくていい、どうせだれも見てないんだからと開き直って、文化人ギャラで出演してくれる人を集めたんです」

 すべては合縁奇縁。「予定していたゲストが出られなくなり、当時司会者だった徳光正行さん(徳光和夫さんの息子)がマツコさんを教えてくれたんです。彼のいとこがミッツさんで、マツコさんと大の仲良しでね。でも会社の上層部は、どうしてオカマなんかみたいな反応ですよ。いつも本番が終わると、近くの居酒屋でくだらない話をずっとしてました」。ウマがあった? 「うーん、僕も会社じゃマイナー扱いで。それに僕、高校、大学と野球部で、女性とすら接してなくて新鮮だったんです。鋭い言葉に目からウロコ。しかも嫌みがない。そう、治外法権なんですよ。オネエは」

 治外法権とは言い得て妙である。アシスタントとして出演を控えていたミッツさんに聞いた。「私たちってサービス精神は旺盛だと思うわ。それに尽きる。1投げたら、10返ってくるのが使い勝手いいんでしょ。便利屋として使われているのは知っている。本望よ。でも、それって作り手の怠慢なんじゃないの」。ちゃんとオネエがテレビで受ける理由を見透かしている。

 さて、そもそもオネエなる呼び方はどこから? 伝説のゲイバー「吉野」のママ、吉野寿雄さん(82)にうかがった。「戦後すぐ、銀座にブランスウィックってカフェがあったの。三島由紀夫さんの小説『禁色』のモデルになったところで、私も出入りしてたの。ゲイボーイのたまり場なのよ。そのころからオネエって耳にした。歌舞伎からきたんじゃないかしらね。主役級じゃない女形さんのことをオネエさんと言ってたわね」

 やさしい笑顔が途切れたのは戦中を振り返ったときだった。「私たち学生は隅田公園に連れていかれて、木銃を手に突撃訓練をやらされる。私は声のトーンが高いから、えーいーっ。すると先生が男は男らしくしろ、とびんたを浴びせる。戦後はようやくオネエとして生きられるようにはなったけど、あくまで隠花植物。これ、コメディアンの三木のり平さんに言われた。まだ芸者の格好して歩いていたら指をさされ、化け物扱いされていたのよ。でも、世も変わるのね、隠花植物どころかヒマワリになっちゃった」

メリハリない社会の「異物」なの

隠花植物の話をしたら、ミッツさん、しみじみ。「私たちがこうしてやれるのも吉野ママら大先輩のおかげ。大変な戦いだったと思うわ。みんな負けちゃったから」。そして自らをミドリムシにたとえた。「光合成して、とりあえずフンを垂れ流して。それで毎日、生きながらえればいいって気持ち。だから、すっごく飽きっぽい。テレビに出たりするの、そろそろいいかなって感じたりね」。メディアにピエロとして消費されていくことへの不安ものぞく。最近、ブログに書き込んだ。

 <今回の「東京五輪決定」に際して、幾度となく、「え? なんでもっと喜ばないんですか? 嬉(うれ)しくないんですか?」と言われました。正直ちょっと気持ち悪いと思いました。(略)私は、手放しで喜んでいる場合ではない現実を踏まえた上で、嬉しい気持ちも、楽しみだという気持ちも、招致委員の方たちよかったね〜という気持ちも、でも、お祭り騒ぎはちょっと面倒くさいなという気持ちも、そうは言っても、新しい国立競技場のデザインは変なんじゃ…?という気持ちも、いろいろ入り交じっていますし、そういうもんだと思うのですが>

 「アハハ、IOC(国際オリンピック委員会)総会での猪瀬(直樹東京都知事)さんのヘンなジェスチャーとか見てると、私、もうついていけない。日本人の感情表現ってそうじゃないでしょ。つくづく敗戦国ね。アメリカナイズされちゃって。そこまで迎合しないと、オリンピックも招致できないの」。ハラハラするが、感じたことを口にしているまで。治外法権を振りかざしているわけでもない。

 「いつしかヒダのない世の中になったでしょ。私たちって異物なの。メリハリのなくなった社会で悪目立ちするってこと。よく素直に生きていてうらやましいとか、勇気があってかっこいいとか言われるけど、自分ではそうなりたいと思ってないでしょ。そんなもんよ。人間ってぶつかるとか、迷い込むとか、さまようとか、そういうことが必要なの。ヒダのない世の中はつまんない、本気でひっくり返そうって時代になれば、私たち、お役ご免なのよ」

 では、オネエに毒舌を吐かせておしまいにする社会は変わる? 「さあね。四、五十年はこのままいっちゃうでしょう。矛盾するんだけど、オネエが素直に受け入れられてしまう健全な社会っていやなのよ。吉野ママみたいにオカマが差別される時代への逆行もいやだけどね」。そんな自問をくり返し、ひねくれ者のミッツさん、そしてオネエたち、今日もどこかのスタジオで「だけどさ……」と予定調和になりがちな空気をまぜっかえしているに違いない。

 ひょっとして空前のオネエブーム、この国が、日本人が臆病になってしまった証左かもしれない。われわれメディアの萎縮もまたしかり。