住宅ローン客争奪、危うい消耗戦 金利競争が銀行経営圧迫

20130917-00000031-fsi-000-9-view住宅ローンをめぐる大手銀行や地方銀行、インターネット銀行の顧客争奪戦が激しさを増している。来年4月に予定される消費税率の引き上げを前にした住宅の駆け込み需要を狙い、利用者にとって最大のポイントとなる金利の引き下げを矢継ぎ早に実施。さらに、融通の利く返済方法やネットでの契約など利便性でも差別化を競っている。貸し倒れの危険性が低い住宅ローンは収益を手堅く確保できるだけに、貸し出し拡大に手を緩める気配はない。ただ低金利を競う中で採算は悪化しており、将来的に経営の重しとなりかねない危うさも指摘されている。

 「これまで聞いたことがなく、異例なのは間違いない」。住宅ローンに詳しい金融関係者がこう話すのは、従来は毎月1日に改定されてきた住宅ローン金利を、月の半ばに改定する銀行が相次いだためだ。8月中旬、みずほ銀行が主力の固定10年型の最優遇金利を年1.65%から1.55%に引き下げ、変動金利型では三菱東京UFJ銀行と三井住友信託銀行も最大0.1%下げ、それぞれ0.775%と0.725%とした。9月1日にも三菱東京UFJ銀や三井住友銀行、りそな銀行などが固定10年型を引き下げた。

 大手行の一部は8月以降、住宅金融支援機構と提携して販売する「フラット35」も含め、金利を競って下げてきた。景気改善が続いているとはいえ、内部留保の上積みを図ってきた大企業には資金を借り入れる動きが乏しい。資金の貸し出し増を目指す各行は住宅ローンを重点分野に位置づけており、膨らみつつある消費税増税前の駆け込み需要を取り込むため、さらなる競争に駆り立てられている。

 日銀が4月に導入した大規模な金融緩和後、市場の動揺で一時上昇した長期金利が今夏以降は低下し、資金調達コストが抑えられたことが金利引き下げ競争の背景にある。もっとも金利水準は既に採算ギリギリ近くにあり、金融機関からは「これ以上の引き下げは難しい」との声も漏れる。しかも利幅が小さくなった分、貸し出しを一段と増やして「量」を追わざるを得ないジレンマにも直面している。

 金利引き下げの余地が乏しくなる中、銀行のつばぜり合いは新たな局面に入った。みずほ銀が8月に発売した住宅ローン商品は、まとまった学費を支払う必要があったり、育児休暇の取得で収入が減った場合に月々の返済額を減らせるなど、家計の支出状況に応じて返済額を増減できる仕組みを取り入れた。りそな銀は女性を対象にした住宅ローン商品を6月に刷新。頭金がなくてもローンを組めるようにしたり、返済期間中にホテルやレストランの割引を受けられる特典も用意した。

 インターネット銀行や地銀も勢いづいている。ネット経由でローン契約ができるサービスを展開する住信SBIネット銀行は8月下旬、営業開始から5年11カ月でローン取扱額が1兆5000億円を突破。「想定以上のスピードで達成できた」(広報)という。住宅が密集する大都市圏ではメガバンクの存在感が大きいが、地方都市では地方銀行が地元の住宅開発案件などに食い込み、住宅ローン需要を囲い込む戦略に力を入れている。

 住宅金融支援機構によると、全国の銀行(大手銀と地銀)が扱う住宅ローンの残高は2008年度末に100兆円、12年度末には110兆円を超えた。銀行の貸出残高に占める住宅ローンの割合も10年前の20%前後から、直近では27%台に上昇している。ただ、金利引き下げ競争が銀行の経営にもたらす悪影響を懸念する指摘も少なくない。

 日銀は4月に発表したリポートで、頭金の割合が年を追うごとに低下傾向にあり、銀行が住宅ローンの融資条件を緩めていると指摘した。統計上、住宅購入にかかる費用のうち頭金の割合が低いほど債務不履行(デフォルト)が増える傾向が分かっている。リポートでは「金利低下と融資基準の緩和が続けば信用コストが増大し、住宅ローンの採算が一段と悪化する可能性がある」と警鐘を鳴らした。

 ドイツ証券の山田能伸シニアアナリストは「住宅ローンの信用リスクは本来低いが、金利競争による『価格破壊』で与信費用が将来膨らむ恐れがある」と話す。08年のリーマン・ショックを招いた米国のサブプライムローン問題は、信用度の低い住宅購入者のローン貸し倒れが発端となった。「当時の米国と現在の日本の事情は大きく異なる」(証券アナリスト)のは言うまでもなく、国内の金融機関は住宅ローンのリスク管理の高度化に取り組んでいる。

 ただ、住宅ローンの返済期間は20年、30年といった長期間に及ぶ。その間、金融市場が不安定になる事態が起きて金利上昇を招けば、住宅ローンの大部分を占める変動金利型の利用者の家計を直撃することになる。銀行の貸出残高に占める住宅ローンの割合が4分の1以上という高水準になった今、長期にわたる融資のリスク管理手法の優劣が銀行経営を左右しかねない恐れも、これまで以上に大きくなっている。