西陣綴織伝承へ、名匠が育成工房 技術途絶の危機に奮起

20130905-00000140-san-000-9-view西陣織の中でも高い技術が求められる綴織(つづれおり)を伝承しようと、叙勲受章者で伝統工芸士の平野喜久夫さん(73)が今月8日、京都市上京区に後継者を育成する工房を開く。機械織や外国産に押され、膨大な手間のかかる綴織が衰退する危機感を抱いたためという。「西陣への恩返しとして、どうしても残していきたい」。職人歴59年の名匠による挑戦が始まる。

 平野さんは昭和29年から活動。平成20年春に瑞宝単光章を受章し、23年には国宝「風神雷神図屏風(びょうぶ)」の風神図を西陣織で再現した。現在は綴織技術保存会「奏絲綴苑(そうしつづれえん)」の代表として、後進の指導にあたっている。

 西陣織の綴織は「爪掻本綴織(つめかきほんつづれおり)」と呼ばれており、ノコギリの歯のように削った爪で緯糸(ぬきいと)(横糸)を丹念につめていく。原画を糸に置き換え、部分ごとに下から細かく織り上げるため、やり直しがきかない。

 緯糸を折り返す位置を微妙に変えることで色をぼかしたり、2色の糸を1本により直して中間色を作ったり、綴織ならではの技法で、機械にまねのできない精緻な作品を仕上げる。

 平野さんによると、綴織は主に帯地に使われてきたが、近年は着物離れに加えて外国産の織物が台頭。高額な商品が「売れない」という理由で作られない傾向にあり、ただでさえ数少ない職人たちが、技術を学ぶ機会も減っているという。

 このため、開設される工房には綴織を手がける「奏絲綴苑」の若手メンバーらがつどって研鑽(けんさん)に励む。共同作業で作る祭礼幕など主に装飾品の受注も目指す。

 工房は、京都五花街で最も歴史のある上七軒に立地。和装に関心の高い住民が多い上、観光客らに作品や制作過程の見学、体験をしてもらうことも視野に入れて場所を決めた。

 「驚かせたい、喜ばせたいという一心で綴織を続けてきた」という平野さんは「各職人によって表現力が異なるのが綴織の奥深さ。自分が必死で覚えてきた技術も、黙っていたら受け継がれない。後継者を育てて西陣に恩返ししたい」と話している。

【用語解説】西陣織と綴織

応仁の乱(1467〜77年)で西軍の大将、山名宗全が西に陣所をはったことが西陣織の名前の由来。法律に基づく伝統的工芸品に12種類が指定されており、綴織はその一つ。西陣織工業組合(京都市上京区)によると、西陣織の織機4266台のうち綴織のものは約170台あるが、稼働しているのは半数ほどという。