「見たことなかった」熱帯の猛毒魚、三河湾に

20130818-00000299-yom-000-2-view「何だ、この魚」「珍しい色だな」

 愛知県南知多町の豊浜漁協で今年5月、渥美半島沖から戻った漁船が水揚げした中に、見慣れない魚2匹が交じっているのを漁師や漁協の組合員が見つけた。

 大きさは20センチほどでコバルトブルーの斑点がある。調べてみると、熱帯海域に生息するカワハギ科のソウシハギと分かった。猛毒を持ち、食べると激しいけいれんや呼吸困難をもたらす。同漁協の飯田照博・市場課長(45)は「こんな魚は見たことがなかった。海の環境が変わってきているのだろうか」と不安そうに話した。

 愛知県水産試験場漁業生産研究所によると、ソウシハギは三河湾近辺では2010年に初めて確認された。以来、県内でも時々水揚げされている。同研究所の日比野学・主任(37)は「冬の水温上昇で、南方の魚が愛知近海で暮らせるようになったのでは」と分析する。

 気象庁などによると、二酸化炭素など温室効果ガスの影響で地球全体が温暖化し、海水温も上昇を続けている。世界の海面水温はここ100年で平均0・51度上昇。日本の近海の上昇幅は世界平均より高く、0・63〜1・72度に達する。

 水温上昇に伴うとみられる異変は、日本近海のあちこちで起きている。

 三重県南部の熊野灘では昨年2、3月、熱帯や亜熱帯の海に生息し、猛毒を持つヒョウモンダコが相次いで見つかった。主に東シナ海や瀬戸内海で取れたサバ科のサワラは、生息域を北に移しつつあり、06年以降、最も取れる場所は日本海側の若狭湾付近となっている。北海道の道東地区では、8月としては異例のクロマグロの豊漁が続く。

「年々、ノリ漁は遅くなっている。これ以上遅れると、一番の書き入れ時のお歳暮シーズンに出荷が間に合わなくなる」

 愛知県の知多半島西の伊勢湾沿いでノリの養殖を手掛ける鬼崎漁協(常滑市)の組合長、竹内政蔵さん(67)は、真夏の太陽が照りつける漁港でつぶやいた。

 ノリの養殖では、種付けをした網を、海水温が23度に下がってから漁場に張り出す。高水温ではノリの胞子が育たないためだ。しかし、知多半島では近年、秋になっても23度を下回らない。91年には10月3日に始めた網の張り出しは、昨年は約2週間遅れの10月15日で、初出荷は12月上旬。竹内さんは「お歳暮シーズンは出荷が遅れると、1日の損害は漁協全体で2000万円に上る」と頭を抱える。

 さらに、海水温が高くなっていることで、秋には湾外に出ているはずのクロダイやメジナなどの魚が湾内にとどまり、ノリを食い荒らす被害も出ている。

 独立行政法人「水産総合研究センター」(横浜市)によると、近海の水温が2・9度上がると、和歌山県以南の太平洋側ではノリの栽培に適さなくなる。愛知県水産試験場漁業生産研究所の山本有司・主任研究員(39)は「高い水温に耐えられる品種の開発も進めているが、今のところ漁期を遅らせるしか方法はない」と危機感を募らせる。

 竹内さんは言う。「20年前は頬かむりして、長袖の防寒着で網の張り出しに臨んだが、ここ何年かはそれじゃあ暑いので、半袖で作業をしているからね」。半世紀以上にわたって生活の拠点としてきた海の変化を、ひしひしと感じている。