さんまにもたけしにもないタモリだけが持つ凄さとは

先日、ある仕事でタモリさんにお会いすることがあった。タモリさんと言えば「笑っていいとも」を筆頭に冠番組が長寿番組になっているものばかりだ。

さんまさんのように毒があったり、自分が回しやすい出演者を固めるわけでもなく、たけしさんのように人と違う視点や表現をするタイプでもない。確かにいろいろな方面で博学だが、押し出しが強いタイプではないが、間違いなく日本を代表する司会者だ。

タモリさんはお会いしても、芸能人オーラをこれでもかと出すわけでもない。いたって飄々としている。実は前日にたまたまある店で江原啓之さんをお見かけしたり、その数日前に別の芸能人の方とお会いするなど、普段はあまりお会い出来ない方々との接点が多い一週間だったのだが、タモリさんの凄さを表現するのは難しい。ただ数十年間続く長寿番組を維持し続けていることは、力もあり、知名度もある司会者の方でも難しいものだ。

今日お会いすることがあり、タモリさんの凄さが少し分かったような気がした。タモリさんの凄さは、人のことを悪く言わない凄さなのだ。つまり、根底にやさしさがあるから、共演者との空気が和気あいあいとしているのがテレビを通してもにじみ出て来る。そして、ただ優しいだけではない。

共演者同士のやりとりがネガティブな要素が含まれていたりすると、すかさずフォローの短い一言を入れるのだ。このネガティブな要素とは共演者だけでなく、スタッフであったり、スポンサーだったり、テレビの前の視聴者だったりする。また、全体の話の流れが淀んだりすると、面白い面白くないではなく自分からおどけてみせたりすることで、場の空気を戻そうとする。こんな能力を持つ司会者は他にはいない。

さんまさんも、たけしさんも、最近で言うなら上田さんも、この能力はない。タモリさんだけが持つ稀有な力だ。だから「笑っていいとも」でも「タモリ倶楽部」でも「ブラタモリ」でも、なんとなく観てしまい、なんとなく笑っているのだが、観終わった後に、強烈な印象は残らないのだ。タモリさん自身が強烈な印象を残そうとせず、その場の空気全体が楽しい雰囲気になるようにリードしているのだから、これは最高の結果なのだ。

「笑っていいとも」は毎週月曜日から金曜日まで放映している。タモリさんほど活躍した人ならば、正直これ以上働かなくてもまったく問題ないはずだが、それでも黙々と番組に出続けている。普通の人ならば、有名になりたいとか、お金を持ったら休みをもらって旅行したいとか「欲」があるはずだが、タモリさんにはそれも感じられない。かといって、取り巻き芸能人グループを作って、飲んだくれているわけでもない。

タモリさんが「笑っていいとも」を始める前には、キワもの的な存在だったときく。私はその時代を残念ながら知らない。ただ、その時代を経て、今はあらゆるものを達観した存在のようになっている。

もし、タモリさんの後継者がいるとしたら有吉さんなのかと思う。今は毒舌を売りにしているが、有吉さんの毒舌の裏には優しさがにじみ出ている。あと数年〜十数年すれば、もしかしたら若き日のタモリさんが変わっていったように変わるかもしれない。タモリさんも苦労した時代が若い頃はあったそうだが、有吉さんも猿岩石時代の絶頂と苦労を味わっている。

ただ、タモリさんのような存在は、もう出ない存在なのかもしれないとも思うのだ。学びを頂いた一日だった。