エイベックス松浦氏の「富裕層重税」発言、どう見るか

エイベックス・グループ・ホールディングス社長の松浦勝人氏による、日本は富裕層に優しくないというフェイスブックの発言が話題となっている。日本は税率が高すぎ、このままでは富裕層が日本からいなくなってしまうと危惧する内容なのだが、松浦氏の発言とそれに対する様々な反応は、富裕層や税金に対する考え方を整理する上で、多くの示唆を与えてくれる。

 松浦氏が問題にしているのは、所得税の税率の高さと相続税の税率の高さである。政府与党は2015年から富裕層の所得税と相続税の引き上げを決定しており、所得税は40%から45%に、相続税は50%から55%に引き上げられる。所得税はこれに地方税が加わるので、稼いだ額の半分以上が税金で持って行かれることになる。松浦氏は50%が限界であり、このような状態ではシンガポールなど税金の安い国に、富裕層が移住してしまうと嘆いている。

 ちなみに松浦氏の年収だが、昨年度はエイベックスからの役員報酬として約4億5000万円をもらっている。また松浦氏はエイベックスの創業者なので同社の株式を多数保有している。役員報酬に加えて株式からの配当収入約2億円が加わることになる。合計すると6億5000万円となり、まさに富裕層といえる。

 株式の名義が会社名義のものと個人名義のものに分かれているため、税金の計算は単純ではないが、おおざっぱにいうと、この収入の半分は税金で持って行かれる計算になる。

役員報酬と配当収入の違い

税金が高すぎるという松浦氏の意見に対して、ネットでは批判の声も多く聞かれる。富裕層の所得水準や課税水準の是非について考える際には、いくつか注意すべき点がある。それは課税対象となっている所得が生まれてきた背景である。

 松浦氏が受け取る役員報酬は、その年の経営者としての労働の対価であり、サラリーマンにおける給料の延長線上にある。報酬金額や課税額の是非を議論する場合には、単純に松浦氏の働きぶりが4億5000万円に値するのか、またそれに対して半額以上を課税するのがよいことなのかを考えればよい。

 一方、株式からの配当収入は役員報酬とは種類が異なる。配当収入はいわばリスクを取って投資したご褒美であり、労働の対価ではない。松浦氏はたまたま自分が経営する会社に自分で投資しているが、これは上場している他の会社に投資してもほぼ同じことである。

 エイベックスが創業した当時は、いつ倒産してもおかしくない会社だったわけであり、そこに貴重なお金を投じた結果、会社が大きくなって巨額の配当をもらえるまでになった。この金額や課税額の妥当性はリスクを取ることへの対価としてどの程度が妥当なのかということを意味している(ちなみに配当課税は所得税よりも安く、個人名義の場合には20%となっている)。

 さらに別な視点が必要となるのが、相続税である。相続税は税金が取られた後に貯まった資産を家族に相続する場合の税金である。税金が取られた後にさらに課税するという二重課税的な側面がある一方、富の形成に直接関与していない人に富が移転するという不公平な側面もある。相続税の是非を考える場合にはこのあたりも考慮に入れる必要がある。

 さらに細かい点をあげれば、資産形成のもとになった事業の内容についてもある程度考慮する必要があるだろう。エイベックスは典型的な内需企業であり、国際的に見て過剰といわれる日本の著作権保護政策など、政府の規制の恩恵を最も受けている企業の一つといえる。また官僚の天下りも多数受け入れているという現状もある。グローバルに展開し、政府の規制がむしろ邪魔になっている業種のオーナー資産家とは単純に比較することはできないだろう。

 このように同社は典型的なドメスティック企業であり、同社のオーナーである松浦氏は現実問題として資産や事業基盤を海外に移すことが難しい状況にある。富裕層が海外に流出するという松浦氏の嘆きは、どちらかというと、がんじがらめで自由にならない自身の現状に対する不満なのかもしれない。