米FRBが市場との対話に失敗、フォワード・ガイダンスは効果なし

米連邦準備理事会(FRB)が債券購入の規模縮小に関するヒントを示したことに対し、市場はFRB当局者の発言ではなく行動を注視するようになってきている。

量的緩和の終了は即座の利上げの前兆ではないとのバーナンキFRB議長発言は注目されず、債券市場の利回りは急上昇した。これはFRBの金融政策の先行き見通しを示す指針である「フォワード・ガイダンス」が思惑通りの効果を発揮していないことを示している可能性がある。

思惑通りにいかなかったことは、FRB当局者が市場に安心材料を与えるために躍起になって発言している姿を見れば一目瞭然で、結果的にある程度市場の安定化につながった。

FRB当局者は意図を伝えることにより、投資家が金利と資産買い入れという2つの異なる政策手段を区別するようになると信じている。

ただし、FRBが債券購入の規模を「拡大または縮小する」可能性を示したほんの数カ月後に、規模拡大の可能性を突然遠ざけ始めたことが、多くのアナリストを混乱させ、当局者発言への不信感が強まった。

こうした不信感が債券市場での売り、新興市場からの資金流出、より広範には市場のボラティリティの高まりにつながった。

欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行(英中央銀行)が同じようにフォワード・ガイダンスの導入を視野に入れているが、誤った方向に導かれているのだろうか。

イングランド銀行の金融政策委員を務めた経験のあるアダム・ポーゼン米ピーターソン国際経済研究所所長は、「一段の手段を打つことを政治的な観点から恐れているが、見通しの悪化をどうにかしたいと考える中銀は、実際の政策の代わりに無駄話に走る。それが『フォワード・ガイダンス』だ」と批判している。

FRBのジレンマ

FRBに政策上の縛りがあることは明らかだ。FRBは2008年12月にフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標をゼロ近辺まで引き下げた。金利が下限まで押し下げられる中、FRBは成長促進のための別の手段を見つける必要がある。

長期金利を押し下げるための債券購入がその1つで、実質のゼロ金利政策が維持される時期の目安も示している。

FRBはこうした金利動向に関するフォーワード・ガイダンスが効力を発揮する政策手段だと考えてきた。市場にFF金利が長期にわたり低水準に据え置かれることを確信させれば、全ての金利を押し下げることができるからだ。

しかし、FRBが月額850億ドルの債券買い入れを縮小し、最終的に終了するとの観測が広がり、市場は大きく動揺した。

世界中の株式市場で売りが加速し、FRBの量的緩和により資金流入の恩恵を受けていた新興市場からは資金が大量に流出した。

もっと懸念すべきなのは、米国の指標10年債利回りが2カ月未満の間に1.63%から一時は2.74%と、1パーセントポイント以上上昇したことで、始まったばかりの住宅市場の回復を阻む恐れもある。

バランスシートが3兆5000億ドルもの規模に膨らむ中、FRBは資産買い入れの拡大については次第に口を閉ざすようになってきており、フォワード・ガイダンスが次第に政策手段の鍵となってきているのかもしれない。

バーナンキ議長は景気を一段と刺激するため、FRBが6.5%という失業率の数値基準を引き下げる可能性があることを示唆した。これはFRBが金利を引き上げるかどうかを検討するきっかけになる水準だ。

ただ、FRB内部でさえも、こうした手法がうまく効果を発揮するかについて懐疑的な向きがいる。エコノミストらによる2012年の報告書で、米セントルイス地区連銀は、こうした約束や言葉の主要な政策手段としての効果に懐疑的な見方を示していた。

報告書の著者は「フォワード・ガイダンスにより、うまく長期金利を制御できるようになるかどうかは判断が難しい」との見解を示した。

フォワード・ガイダンスは失敗との見方

FRBが債券購入の規模縮小のプロセスと、金利引き上げ開始を区別しようとしたことが、フォワード・ガイダンスが失敗した例として挙げられる。

バーナンキ議長は債券購入の規模縮小計画を示した際、景気支援から手を引く段階には至っていないと投資家を説得しようと試みた。

ただ市場はこのメッセージをほとんど無視した。

TDセキュリティーズのエリック・グリーン氏は、フォワード・ガイダンスは失敗だったとの見方を示している。

少なくとも2015年まで利上げを行わないことを示すFRBの予測にもかかわらず、先物市場は現時点で、早ければ2014年秋の利上げを織り込んでいる。

ポーゼン氏は「発言だけでは金利をコントロールできない。もし発言を行動の代わりにするなら、金利は上昇する」と述べている。