残業時間に比べ安すぎる「一律残業手当」 従業員は実際に働いた分を請求できるか?

「基本給に加えて毎月一定の残業代を支給する」。そんな給料の払い方をする企業が増えているという。これは「定額残業代」などと呼ばれ、あらかじめ「月に15時間」といった標準的な残業時間を設定し、その分は毎月一律の手当とする制度だ。求人広告などでは「一律残業手当」と書かれていることも多い。

だが、実際に従業員が働く「リアルな残業時間」は、それより長くなる場合も多い。そのようなとき、従業員は会社に対して「一律手当以上の残業代を払ってくれ」と要求できるのだろうか。それとも、一律残業手当を認める契約をした以上、どんなに働いても定額の残業代しかもらえないのだろうか。岩井羊一弁護士に聞いた。

「一律残業手当」分より長く働いたら、差額を請求できる

「『一律残業手当』は、残業手当の上限ではありません。もし『一律残業手当』が法定の残業代より少ない場合には、差額分の残業代を請求できます」

――どうしてそう言えるのだろうか?

「労働時間は法律で規制されています。その時間を超えて従業員を働かせた場合、会社は残業代を支払う義務があるのです。会社が労働者に『一律残業手当』という契約を結ばせることで、その規制を免れることは許されません」

――どれくらい残業したか、ハッキリしない場合は?

「本来、会社には、従業員をどれだけ働かせたのかきちんと把握する義務があるのですが、実際のところ、会社も労働者の労働時間を把握していないことがよくあります。

『一律残業手当』が認められるためには条件があって、判例では『通常の労働時間の賃金に当たる部分と、時間外および深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することができなければならない』とされています。つまり、そういった区別がはっきりしていない会社に対しては、残業代は全額請求できます」

――では、働いた分の残業代をきちんと支払ってもらうために、従業員が気をつけるべきことは?

「訴訟になった際、会社側は『残業時間がそれほど長くない』とか『長時間の残業が生じるような仕事量はない』などと反論してくることがあります。

そこで、『一律残業手当』を超える残業代を請求するためには、タイムカードを実態に合わせてきちんと押す。始業、終業の時刻を自分の手帳にメモする。自分のした仕事の内容をメモしておく、などなど働いた証拠をきちんと残しておくことが重要です」