九重親方の千代大龍操縦術 現代っ子転がすニンジン作戦

20130718-00000009-ykf-000-4-viewプロ野球界では名選手、名監督ならず−と言われているが、大相撲界に限っては名力士、大力士はまた名親方だ。中でも史上2位の優勝31回の九重親方(元横綱千代の富士)の愛弟子操縦法は見事の一言に尽きる。何しろ、あの怖い者知らずの千代大龍(24)を面白いように掌中で転がしているのだから。

 千代大龍の現代っ子ぶりは、こんなエピソードからもうかがえる。5日目、千代大龍は綱取りを目指す稀勢の里を送り出し、絶望の淵に追いやるという殊勲の星をあげた。懸賞7本(38万5000円)を獲得し、肩を揺すって引き揚げてきた千代大龍は、いかにも気持ちよさそうに話した。

 「懸賞? 出産費用ですね。できれば男の子がいい。プロゴルファーにして面倒見てもらいますよ」。場所後に婚約者の角野智香さん(28)と入籍する予定で、すでにおなかの中には来年1月に誕生予定のベビーがいるのだ。

 それにしてもしたたかなオヤジだ。こういう弟子の尻を叩くのに余計な言葉はいらない。この稀勢の里戦のときも、九重親方は千代大龍の耳元でこうささやいた。

 「勝ったらご祝儀だな」

 このストレートなニンジン作戦、今年の春場所でも功を奏し1横綱1大関を食う殊勲を引き出した。今回もこれが稀勢の里潰しを生み、九重親方は約束通り10万円のご褒美を出すはめに。ただ、8日目に日馬富士から金星をあげたときはさすがにうろたえ「オレの方がもらいたいよ」と出すのを拒否している。あまりにも頻繁過ぎたのだ。

 もしかしたら、10日目はこれで気勢をそがれたのか。前日に続き、この日も隠岐の海に生命線の立ち合いの当たりを封じられ、最後は土俵を割った。「ああ、昨日、ずっと隠岐の海戦のビデオを見たんですけどね」と千代大龍は無精ひげを撫でながらため息をついた。

 負けっぷりもけれん味がなく印象的。王手をかけている三賞が消滅するのは痛いが、それもまたいいじゃないか。存在感が命のプロだもの。