ダンス 深夜営業禁止 風営法改正に署名15万人

20130717-00000020-mai-000-5-view◇「なぜ踊れぬ」異議拡大

 政府は、風俗営業法が定めるダンス規制を見直す検討に入った。風営法は、クラブなど客にダンスをさせる店に公安委員会の営業許可を求め、営業時間を制限している。この規制に基づき、クラブの摘発が相次いでいることに危機感を抱いた愛好家による風営法改正を求める運動が拡大。5月には音楽家の坂本龍一さんらが中心となって集めた15万人分の署名を超党派の国会議員に提出した。政府は規制改革会議などで議論を進める方向だ。「踊れる国」を求めて草の根的に広がったダンス愛好家の訴えは、結実するのか。

「クラブって『風俗』ですか?」。5月20日に発足したダンス文化推進議員連盟(会長・小坂憲次元文部科学相)。その初会合で、風営法違反(無許可営業)容疑で逮捕されたクラブ「NOON」(大阪市)の経営者、金光正年さん(50)が、悔しさをぶちまけた。

 逮捕されたのは昨年4月4日。午後9時43分、ビートルズなどのロックを流し、客ら約20人の踊る店内に大阪府警の捜査員45人が乗り込んだ。「無許可でダンスをさせた疑い」。「なぜ踊ってはいけないのか」と問う金光さんに捜査員は「法律や」と繰り返した。

 クラブなど客にダンスをさせる店の営業は、地元の公安委員会の許可が必要で、開店時間は深夜0時(一部地域は1時)までに限られる。若者が集まるクラブにとって深夜は書き入れ時。許可を受けずに深夜営業するケースが多く、金光さんも無許可だった。

 金光さんのこだわりは地元のDJやアーティストを起用し、音とダンスを通じて大阪を元気にすることだった。「SAVE・THE・NOON(ヌーンを救え)」。逮捕後、金光さんにDJらの訴えが届く。「規制を変えてクラブを再開する」。留置場で決意した。

 クラブ事情に詳しい弁護士らによると、摘発は2010年ごろから本格化。5月にも東京・六本木の人気クラブが摘発されるなど、この2〜3年で20店近くが閉鎖に追い込まれたという。捜査のメスは社交ダンスにも及ぶ。11年6月、サルサバーの草分けとして六本木で20年営業してきた「スダーダ」の池田克彦店長(44)が風営法違反(無許可営業)容疑で逮捕された。ラテン音楽に合わせてペアで踊るサルサへの取り締まりに池田さんは「まさか逮捕されるとは思わなかった」。12年7月、スダーダは閉店した。

 規制強化の背景には、暴行や薬物売買などクラブを舞台にした事件の発生を受け、周辺住民から摘発強化を求める声が警察に寄せられていることがある。警察庁はダンス規制の理由を「風俗環境を害し、少年の健全育成に障害を及ぼす恐れがある」と説明。ただ、風営法の施行は戦後間もない1948年。ダンスホールが買売春の取引の場となっていた時代だ。ダンス議連幹事長で警察庁出身の平沢勝栄衆院議員は「時代遅れな法律」と指摘する。

 摘発が続く中、規制の見直しを求める声は草の根的な広がりを見せている。風営法改正を目指す署名を受け、政府内にも規制の問題点を指摘する声が出てきた。「僕らの手で法律が変わる実例を示せれば若い世代に勇気を与えられる」。政治と距離を置いてきた若いダンス愛好家から、声が上がっている。

キーワード【規制改革】

経済活動や社会生活を円滑に営むためのルールとして作られた規制を見直すこと。1970年代の行政改革の中でも整理統合が進められてきたが、90年代に入ると民間市場の拡大を目指す規制緩和に軸足が置かれ、95年には政府として最初の行動計画「規制緩和推進計画」を策定。その後も3カ年計画を3年ごとに決定し、金融、流通、医療などさまざまな分野で規制改革を進めている。

 しかし、府省による許可、認可、届け出などの許認可件数は昨年3月末現在で1万4579件と、10年前より約3500件も増加。政府は6月に成長戦略をまとめたが、その実現には、企業活動や革新的な技術開発を妨げている規制の抜本的な改革が不可欠となっている。